第6話

 会社に着いたが、心配はまったくの杞憂に終わる。

 考えてみれば昨夜も姿を消したように、真三は自由に見えなくなることができるのだった。

 昼休みに珍しく外出し、近くの公園で昼食をとる。その時にどうやっているのか話を聞いた。もちろん、真三は姿を現している。

 周囲の女性の視線を集めてしまったが、虚空に一人で話しかける危ない私を見られるよりはマシだった。

「光学迷彩技術の応用です。あなた方の視覚器官が使用する周波数帯だけでなく、それ以外の帯域にも対応しているので、センサーの類にも引っ掛かりません」

 半分ぐらいは分かった。とにかくすごいらしい。

 私は真三が朝食と一緒に用意していたおむすびを口にする。おかずは公園に来る前に買ったサラダと鶏むね肉の燻製だ。

 健康に気を遣えということで強制的に選択させられた。

 相当内臓が痛んでいるらしい。

 いつもなら机で爆睡する時間に外で日の光を浴びながらの食事。しかも孤食ではない。イケメンとのランチデートである。真三は食べていないが。

 これが心身に及ぼす影響はかなりいいのではあるまいか?

 午後も渋々職場に戻って仕事をする。

 色々と事件が起きた。というか、真三が起こした。

 やたらと触ってくるので女性社員から毛嫌いされている先輩社員がやってくる。

 いつものように私の仕事ぶりにダメ出しをしつつ、励ましのつもりのセリフを口にした。

「しっかりしろよ。サオリン」

 そして頭をポンポンしようとする。うげえ。

 私の手首が何かにつかまれて動き、先輩社員の手を払った。

「髪の毛が乱れるので触らないでもらえますか?」

 私はしゃべっていないのに私の不機嫌な声が聞こえる。

 振り返ると鳩豆を食らったような顔をしている先輩社員の顔が見えた。

「ちょっと励まそうとしただけなのになんだよ。セクハラとでも言うのかよ?」

 私じゃ無いんです。と言おうとした口が塞がれる。

 頭に優しく何かが添えられてモニターに向き直らされた。

「嫌なものは嫌なんで」

 押し殺した私の声が響く。

「なんだよ。ふざけんなよ」

 先輩社員は足音高く居なくなってしまった。

 ちょっともう。何勝手なことしてんのよ?

 手と口に添えられていた圧が消える。きょろきょろと周りを見るが真三がどこにいるのか分からなかった。

 ため息をつきながら仕事を続ける。

 それから一時間ほどしたころだった。

 業務用携帯のチャットアプリに当該勘違い社員からメッセージが入る。私だけでなくグループ全員宛てに、謝罪と今後一切身体接触はしないという言葉が綴られていた。

 狐につままれた気持ちになる。

 さらに、定時に退社するようにPMからメッセージが来て、半ば強制的に退社させられてしまった。

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