第5話

 道行く男がチラリと私の方を見て顔を逸らす。すれ違った女子高生二人組はマジマジと見てきた。

 正確に言えば水平に五十センチほどずれている空間をだ。

「見た? 見た? 今の人凄くカッコよくない」

 そんな声が聞こえる。

 ということはだ、車道側を歩くこやつは他人の目にも見えるらしい。

「あの?」

「なんですか? 早織。急がないと約束の時間に遅れるのではないですか?」

 スマホを取り出しチラリと見る。まだ走らなくても大丈夫。

「このペースで歩けば大丈夫よ。それよりも、あなたは誰なの?」

「まだ混乱が続いているようですね。肉体の修復は完璧にできたはずですが」

「まだ。宇宙人とかいうヨタ話を続けるの?」

「それが事実なので」

 まあ、消えたり現れたり、一瞬で衣装を変えたりしているので、そうかもなあ、とは思っていたのだが。

「凄腕のマジシャンってことはないのよね?」

「違います」

「そうだ。あなたの名前は?」

「本名は……」

 何も聞き取れない。左右の家の犬が一斉に吠え出した。

「早織の耳では聞き取れない音域のようですね。とりあえず不便なので仮の名前を考えておきました。ハットリシンゾーです」

「実は忍者? 今までのは全部忍術ってわけ?」

 そこまで話していると昨夜の記憶がふいに蘇る。

「シンゾーって、私の心臓を利用しているから?」

「はい。分かりやすいと思ってそこから名付けました。表意文字は変えて、真実の真に数字の三とします」

「名字は?」

「私たちは諜報機関に属していました。この地域には昔、先ほど言っていた忍者という諜報員がいて、服部と名乗っていたことを調べ、そこにあやかった次第です。かなり昔ですが、高名な方に半蔵という方が居て、韻を踏んでいるのもいいかと」

「そう。それで、何をしているの?」

「重要なものを探しにこの星に来たといいましたね」

「そんな話をしていた気もする。だったら早く探しに行かなくていいの?」

「私はあくまで早織を通じて実体化しているので、一定距離以上は離れることができません」

「それってどれくらいなの?」

「この星のMKSA単位系で二百メートルぐらいです。いずれ伸びると思いますが現時点ではそれが限界ですね」

「なるほど」

 エムなんちゃらは分からないが、二百メートルということは分かった。

「探し物には早織の協力が必要です。ですので、当面は早織の保護をすることにしました。それと、健康の回復にも協力します」

「なんで?」

「私の兄弟も別の器官を通じて実体化するのですが、現状ではその臓器が機能不全を起こしかけており、支障があります。私が利用させて貰っている心臓は一応修復しましたが、危険な薬物を摂取すればまた壊れてしまうでしょう。それを防ぐために監視させてもらいます」

「うちの職場は部外者入れないわよ」

 真三は不敵な笑みを浮かべた。

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