第4話

 何かいい香りがして目が覚める。

 うーん。お味噌汁の香りだ。どこの家の香りが入ってきているんだろう?

 やば。窓開けっぱなし?

 慌てて飛び起きる。

 廊下からイケメンが顔を出した。

「あ、起きた? それじゃあ朝ご飯にするね?」

 うーむ。昨夜は久方ぶりの合コンであっただろうか? で、幸運にもイケメンをお持ち帰りした? いや、そんなはずはない。

 呆然とする私の目の前で、ローテーブルにご飯と味噌汁と卵焼きが並んだ。

「材料が少なかったから、こんなものしかできなかったけど、さあどうぞ」

 私は大胆にもしゃがんでイケメンの腕に手を伸ばす。手に温もりを感じた。

 えい。イケメンの頬にも触れてみる。

 反対の手で自分の頬をつねった。痛い。

 そんな私を見てイケメンはニコリと笑う。

「肉体の修復には栄養を摂取しないといけないからね。再構成にはたんぱく質が必要だし、脳を働かせるためにはブドウ糖が必要だよ」

 イケメンはすっと身を引くと廊下に消えた。

 何かピッピッという電子音が聞こえる。

 そっちも気になるが、目の前の食事が私の興味を引いていた。

 暖かい朝食が出てくるということは我が家では大変に珍しい。というか朝食をとること自体が稀だ。

 そう言えば昨夜もまともな食事をしていなかった。

 炊き立てのご飯はそれだけで美味い。甘い卵焼きは体に染みるし、味噌汁の香りは体を目覚めさせた。

 美味しく完食するとスマホのアラームが鳴り始める。

 シャワーを浴びて家を出るのでギリギリの時間だった。

 さて、イケメン君がいるが、服を脱いでシャワーを浴びてもいいものだろうか? 大丈夫だ問題ない。

 何かする気なら食事なぞ作らずに寝ている私を襲えばいいのだ。私にはその価値がないと判断したのだろう。うう、なんか悲しくなってくる。

 脱衣所に行って驚いた。抜けた髪の毛がホラー映画のように散らばったままだったのにすっかりきれいになっている。

 浴室を覗けば同様に掃除されていた。

 服を脱ぎシャワーを浴びる。ウルトラエクスプレス入浴。少しだけ頭がしゃきっとした。計算をしてみる。六×八は四十二。よしOK。

 浴室を出ると部屋から掃除機の音がしていた。

 脱ぎ捨てた服がない。

 バスタオルで体を吹き、体に巻き付けて部屋に戻った。

 食べてそのままにしておいた食器は片付けられている。

 イケメン君は私の体には目もくれずに掃除機を仕舞うと廊下に消えた。

 大急ぎで下着を穿き、ブラを身につけ、キャミに頭を突っ込む。

 シャツに袖を通していると、洗濯物を抱えたイケメン君がベランダに出ていった。

 ひょっとすると寝ぼけて家政夫の派遣を頼んでいたのかもしれない。

 スーツを着ていると放り投げていたバスタオルをイケメン君が回収した。

 そろそろ出社しなければならない。

「出かけなければいけない時間なんだけど」

「分かりました」

 エプロン姿だったイケメン君がスーツ姿に早変わりした。

「それじゃ、行きましょうか?」

 よー分からんが、同伴出勤するつもりらしい。

 私の頭がおかしくなったのか確かめるために一緒に部屋を出た。

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