第6話 『走る狂気』


 20世紀後半、高度経済成長のさなか、自動車が、走る凶器なんて呼ばれた時期があった。


 しかし、さまざまな、取り組みや、安全装置の開発で、21世紀の前半期には、かなり事故が減ってきた。


 一方、かつて成長を支えた世代が高齢者になり、その引き起こす事故が、顕在化してきたりもしたが、これも、寿命というものもあり、次第に少なくなった。


 しかし、21世紀の後半、空中自動車の急速な一般化で、予期していなかった事故や、事件が増加してしまった。


 システム上のトラブルが多発したのだ。


 なんせ、深夜に、空中から、ルートを逸脱したクルマが降ってくるなんてのは、楽しくないにちがいない。


 まあ、それも、徐々に改善されてきていたのである。


 ところが、核テロと並んで恐れられたのが、まさに、空中自動車テロだった。


 空中交通の維持は、コンピューター、というか、進化した人工知能が行っていた。


 こいつを、乗っとるのである。


 しかも、国家的規模で、秘密裏に、さかんに他国に於いて、これを実行した国が現れたのである。


 一度に、何千台、何万台規模で、事故らせたのである。中には、小型核爆弾を搭載していたりもした。それが、多発したのだ。


 非常に巧妙に行われたので、犯人の証拠が掴めないため、被害を受けたがわは、憤懣やるかたないということになった。


 問題は、ニュー国連に持ち込まれ、被害を受けた側から、世界的な調査が提案されたが、ニュー拒否権の連発で、さっぱりと、動けないのだった。


 

  ・・・・・・▲▲▲▲▲▲●●●●・・・


 

 『世界生き物連盟』は、各地で、仲間たちの被害が止まらないことに、業を煮やした。


 世界各地で、生き物による、人類襲撃が相次いで起こった。


 くまも、ライオンも、ねこも、いぬも、へびも、シャチも、みな、怒っていた。


 人類代表は、ニュー国連から派遣されていた。


 わん属、にゃん属、ウサギ属、くじら属などに働きかけて、事態の沈静化を図ろうとしたが、今回は、さっぱり、上手くゆかず、まったく、孤立していたのである。ただ、くじら属だけは、一定の理解は示してはいたが。それは、住む場所が、重ならないという事情があったからでもある。しゃち属は、寛容ではなかった。


 『世界生き物連盟』は、徹底的な調査が必要という決議を行い、人類には、強い制裁を課すとした。


 事務局長の、オランウータン属、パウ氏は、かねてより、人類に警鐘を鳴らしていた。


 『人類の未来は暗い。しかし、小さな光はまだある。ただし、消えかけている。』


 彼女は、哲学者でもある。


 『殺し合いのけんかをするのは、ひと科ひと属の特徴である。それも、大量に殺し合う。自己を誇るとき、主に追随するとき、他を蔑むときに、顔で笑うのも、特徴である。しかし、顔では、笑わないひともあるが、それは、一種の伝統か、個性だ。ひとは、集団になると、残酷さを増す。リーダーは、たとえ、種族が全滅しても、自分の優位を確保したがる。そのためには、人類を絶滅させても、やむを得ないとさえ考えるが、いまだ、実現させたことはない。それは、単に、数が多いからである。つまり、ひとは、極めて狂暴で、攻撃的で、また、ひどく、夢見がちでもある。しかし、個別には、脆弱で、なんの武器も体に持たない。だから、武器を作りたがり、さらに、狂暴になる。リーダーは、身の安全のために、しばしば隠れてしまう。自分の欲求を、ひたすら追求し、そのためには、従属するひとの犠牲も、ほとんど厭わない。自分の正当性を認めさせるために、さまざまな見えない理想を立てる。』


 しかし、事務局長は、ひとに対して、常に融和的でもあった。


 それでも、今回は、さすがに、弁護しにくかったのだ。


 『やむを得ないですね。彼らに、出てきてもらいましょう。人類の天敵、かつて、一度ならず、人類を絶滅に近づけた、あの、殺人ウイルスを、さらに強い種類のものたちを、ふたたび、解き放ちます。』


 かつて、人類は、最初、アフリカに広がっていた。そもそも、初期の人類人口は、かなり少なかったが、7万年くらい前には、急速な環境変動で、ほとんど絶滅に近い状態になったと推測されている。残ったのは、2000人程度という推測もある。これは、しかし、ウイルスではなく、トパ・カルデラの、破局的噴火が直接の原因という説が有力である。


 また、これは、遺伝子の研究から出てきた推測だという。


 20世紀の初めと、21世紀の始めには、ウイルスによる、パンデミックがあった。


 世界生き物連盟の防疫部門は、ひとと、他の生き物にも感染し、結果、ひとには、非常に高い致死率になると推測されるウイルスを、厳重に保管している。


 もし、これを解放したら、人類には、かなり厳しい時代が訪れることになるだろう。


 原因を作ったのは、人類である。


 

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『ぷちぷち みらい』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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