第5話 『ピアニストさん』
人類が、クラシック音楽とか、芸術音楽を、ほとんど、理解しなくなったため、その道の演奏家は、民族音楽などに転向するなり、他の職業に変わるなりの対応を迫られた。
これは、地球の独裁者にして、後に、逮捕され、第9惑星に幽閉された、あの、多数林(タスウリン)の政策だったのである。
彼女は、地球、各民族の、伝統的な民族音楽以外は、禁止したからである。
火星植民地出身で、しかも、抑圧されていた少数派だった、多数林は、分断を武器にして、自らの正当性を確立していた。
つまり、『眼鏡橋原理』である。
地球の植民地だった火星は、ついに、地球を支配するに至ったのである。
地球の、ある、神社の神官の娘であった、優慈菜貘端薄(ユウジナバクハウス)は、2歳から勝手に、神社の端っこにあった、古いピアノを、弾きはじめた。
かなり、音程は狂っていたが、いつの間にか、自分で調律してしまったらしい。
神社には、なぜだか、楽譜が沢山あった。
毎日清掃に来ていた、ある氏子の方が、ピアノの嗜みがあり、手ほどきを受けた程度だったが、その進歩は、劇的だったらしい。
6歳ころには、ベートーベンと、モーツァルトと、プロコフィエフと、ショパンの、全ピアノソナタを暗記してしまい、完璧に演奏できたという。
しかし、ちょうど、多数林の専制が、苛烈になってきた時期だった。
地球には、音楽学校とか、音大とかは必要ないという、多数林の指導により、各民族の民族音楽学校以外は、すべて、禁止された。
従わない者は、容赦なく逮捕され、秘密収容所に送られた。
モーツァルトを聴いただけで、死刑になることもあった。
優慈菜貘端薄は、あまりに危険とされ、7才になってすぐに、地元政府により『保護』されたが、なぜだか、多数林が彼女に興味を持ち、火星に連れてこさせたのである。
クラシック音楽に全く無知で、聴いたことさえ、ほとんど、無かった、多数林だ。
それが、優慈菜貘端薄に、火星の官邸で演奏するように命じた。
貘端薄は、子供ながら、優れた知性があった。
自分は、ここで、処刑されると思っていたから、まさに、最初で、最後のリサイタルと、認識して、恐るべき、演奏をしたとされる。
それは、官邸の、ある、隠れ音楽ファンだった下級官吏が、内緒に録音していたのである。
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