第18話 どーも、ひとときの安らぎ(仮)

前回のあらすじ


主人公 エルフに叱られる。



本文



どーも、ユリさんを泣かしたオッサンです。

泣き止むまで背中をさすり続け、落ち着かせる。ユリさんの気持ちは分かっていた。小説でよくあるような鈍感な男ではない。前の世界のことがフラッシュバックするんだ、裏切り、そして借金。誰もが見て見ぬふりをする。俺は信頼し信じることは出来るが、相手からの信頼や好意は応えたくない。ただただ怖い。


「落ち着いた?」


「はい、ありがとうございます」


「えっと、これハンカチ。あげる」


転移した際に持っていたハンカチをユリさんに渡す。


「ケンさん?その優しさを私以外にしないでくださいね。他の女にしたら、私、嫉妬でその女を殺したくなりますから」


「別に俺は優しくないよ。ユリさん、束縛は良くないよ。俺、そういうの嫌いだからやめてね」


「うう、束縛...ですね、気をつけます。違う話にしましょう?」


「お、おう。そういえば、ここどこ?」


「ここは、大鬼オーガが多く生息していた洞窟だと思われます。この辺りに生息していたモンスターを引き連れてあの化け物にぶつけました。もう死んでいるでしょうし、少しの間なら安全だと思います」


「洞窟ね...生物反応はないし、そこまで深くない。ゆっくり出来そうだね。たしかに、ミノスがあの軍勢を殺していそう」


「ミノスというのは猛牛鬼の支配者ミノタウルスロードのことですか?ガンツさんといい、ケンさんはすごい方に一目置かれる存在なんですね」


「どちらも偶然だろ?一目置かれるとか嫌だよ。あんな化け物はもっと強いヤツが相手してくれよ」


「ふふ、この森は飽きること無さそうですね」


空が暗くなってきた...森に入ってすぐ死闘をするなんて考えていなかった。はあ、血を流し過ぎた...


「今日はここで野営しよう。俺、もう限界...。見張りお願い」


「はい、今日は本当にお疲れ様でした」


俺は瞼を閉じ、寝ている間に何事もないよう祈りながら寝る。




※ユリ視点


愛しいケンさんが寝たのを確認し、マジックバックからパンと粉末状のポタージュを取り出す。軽食を作り味わって食べる。


「今日は色々なことがあって、勢いでケンさんに怒ってしまったわ。だけど、あの作戦は私を安全な場所に遠ざけるため...もっと強くならなきゃ」


ケンさんが生き残るための作戦と言っていたのは嘘。スマホを預けるなんて、生命線とも言える物なのよ?ケンさんがたったひとつの生きるための必要な物って言ってたじゃないの。


「ケンさん...貴方は私が必要と言ってくれた。でもね、私は貴方がいないと死んでしまいたくなるの。だから、私より早く死なないで」


私がモンスターを引き寄せられたのは本当に幸運でしかない。集落を見つけ1番強そうなモンスターに傷を負わせて私を追いかけるようにした。でも、ケンさんたちの戦闘はモンスターたちも逃げ出すほどだったの。だから多くのモンスターにちょっかいをかけて数で押し倒せると錯覚させた。もしも、モンスターが近くにいなかったら?もしも、私がモンスターに傷をつけられなかったら?全て幸運でしかないの。


「ケンさん...どうして強くなれるの?私は、ミノスを見た時声が震えて恐怖で身体が動かなかった」


猛牛鬼の支配者ミノタウルスロードはそれだけ圧倒的な存在だった。でも、ケンさんは違った。あの化け物に対して挑発をした。慌てて私もついケンさんに向かって馬鹿と言ってしまうぐらい、愚かな行為をしていた。生き残るために足掻く姿を笑う者もいる。ミノスも初めはそうだった。


「あの目...あの目を見たミノスは、笑うのをやめてケンさんを好敵手と認識したのよ。力強い目、真っ直ぐ敵を屠るために闘志を燃やし何がなんでも生き残ると決意した瞳」


私はその目が好き。


「私、さっきから何を考えているのかしら。ぐちゃぐちゃじゃないの」


食事を終えて、食器を洗い一休みする。


「今のうちに体を拭いて着替えなきゃ。ケンさんの血が染みて...ふふふふふ。この服はもう着れないからマジックバックに宝物として保管しときましょ」


私は一休みしたのち、服を洗濯し武器を磨く。あと、4時間ケンさんを寝かせておきましょうか。




後書き


次回 雨

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