第16話 冷戦
毎週末、しつこいくらいにスマホを鳴らしていた先生からのメッセージがパタリと途絶えた。
もしかして、昨日言っていたように……私からの連絡を待っているのだろうか?
もし連絡しなかったら、……傷ついて怒ったりするのだろうか?
このまま何もせずに放置していたら……、次先生に会った時、前よりもずっと機嫌が悪くなっていたりしないだろうか?
でも今先生に連絡をとったとして、なにを先生と話して、どう向き合えばいいのだろうか…?
……先生は、私のことを……どう思っているのだろうか……?
考えれば考えるほど身動きが取れなくなる……。
月曜の天気は、先週とは正反対の快晴だった……。
空高く登った太陽の光が、木の葉の隙間から道の上に降り注ぐ。
昼の帰り道、木漏れ日の下を歩くだけでその熱量を肌に感じた。
深圳の季節は変化が早すぎるきらいがある。
衣替えもまだ済んでいないのにもうこんなに暑い。
しかしその暑さに煩わしさを感じることはなく、むしろ気持ちを軽く爽やかにしてくれる心地さえ感じた。
日差しの中、無心で足を動かしていると、あの日先生が耳元で囁いた言葉が頭に思い起こされた。
あの時、先生はたしかに言った。
『私は友理しかいらない』『友理がいてくれればいい』と。
これが、俗に言う独占欲というものなのだろうか。
だとしたら、先生の独占欲は確実に強い部類に入るだろう。
漫画やドラマの中で見た嫉妬には、まだ可愛いとか面白いとか思えた。
でも実際に自分の身に起ってみると、全く違う感情を感じるようになった……。
これが人を『好き』になることで、人と『恋愛』をすることなのか…?
いま胸に疼いている痛みは、一体何なのだろう……
今私は、自分でも意外に思うくらい、先生と会うことになんの感情も抱かなくなっていた。
宿題を持っていっても、社交辞令で挨拶をする以外なんの会話もない。
先生と私は、冷戦に入ったのか……
……何もかもが分からない。
まるで心が麻痺してしまったかのようだ。
そう思うのはもうこれで何度目か。
ブンブンとネガティブな思考を振り払って、注意力を目の前のことからそらさないように尽くす。
「勉強、勉強っと……」
自習の時間。
隙間なく埋まった数学のノートをめくって、次の問題を解き始める。
数学は苦手だ。だけど最近はなぜか無性に数字が見たくて、ひたすら数学の問題を解いていた。
頭を数字で埋めていれば先生のことを考えずに済む。少しの間だけでも先生の影から逃げることが出来る。
こうして先生のいない一週間が過ぎて、五月が間近に迫ってきた。
ほぼ全ての時間を机の前で過ごして数日。
連休気分も抜けないまま、静かな教室で、時計の針が進む音に追われるようにペンをがむしゃらに動かしていた。
なにも考えず、出された問題を解くことだけに頭をフル回転させる。
そして最後のチャイムが鳴ると、教科書とノートを放り出したい衝動を抑えながら家に帰り、我慢していた未読の漫画を読んで、好きなだけ睡眠を貪った。
なんだか久しぶりに目にする爽やかな朝日を浴びて、やっと中間テストは終わったのだと実感した。
この期間中、私と先生は会ったには会ったが、交流したかと言われるとそうでもないような感じだった……。
顔は合わせるし言葉も交わしたが、全て事務的な内容で、チャット上でも連絡はしなかった……。
五月七日木曜日になるまでは……。
暦が五月になるとほぼ同時に気温が数度上がって、昼の気温は三十度に届くようになっていた。
にわか雨も増えてきて、夏が近づいていることを知らせる。
そんな日の夜、スマホに玖嘉先生からの着信が入った。
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