第12話 欲張
もうすぐ中間テストだ……、と考えながら目を閉じる。
まだ新学期が始まって一月強しか経ってないのに、もうテストのことを考えないといけないなんて。
この一ヶ月は随分と過ぎるのが早く感じたが、目を閉じたまま思い返すと、あまりに色んなことを体験していたことを思い出し、短くて長い、奇妙な感覚だ。
今週、先生は私が職員室に行く度に授業の感想を聞いた。
自分の授業に漏れがないか、着いてこれていない生徒はいないかを必死で確認していた。
復習スケジュールとテスト内容を早めに用意するためだろう。
玖嘉先生だけじゃない、他の先生達もテスト戦争の時期に入っているらしい。
しかし生徒は部活動も普段通り行っていて、そこまでの緊張感はまだない。
月曜日にはクラスの班ごとに展覧会みたいなこともしたし、他のクラスのサッカー試合も放課後に行われていた。
私が所属するココ部もいつもと変わらず営業中である。
今日は特に、生徒会による活動調査が行われる日である。
会場は、部長が借りた一つの教室。
週末のパワポ作りでは、思わずジブリに関する文章とか分析資料を半日いっぱい掛けて大量に読み込んでしまった。
発表では時間制限があるため、全てをシェアできないことが残念だが、私は色んなことを知れたので、割と深い内容を出せたと思う。
生徒会の反応と最後の拍手から、私も先輩たちも悪くない発表ができたのが分かった。
二次元を対して知らない人たちにも分かりやすいように、それでいて豊富な内容を詰め込んだのだ。
今回の調査も問題なくクリアしたのかな……。
これで週に一回しか無い、今週の部活動は終了である。
こんなに楽しく自分の好きな部活に参加できたし、この間は自分の書いた小説も一定の評価を得ることができた。
日々がすごく充実しているように思えて気分がとても良かった。
この一月で色んな事があったけど、どんなに特別な日でも長くて二十四時間しかない。
中間テストまでまだ一ヶ月あるけど、その時間もあっという間に過ぎてしまうのだろう……。
そうすれば今度は期末テストを迎えて、夏休みを過ごし、高校で過ごす一年目が終わるのだ。
そんなことをちょいちょい考えていたら、金曜日がやってきた。
今日は私から、と思って職員室で夜のデートに誘おうとしたら、思いがけず先回りして「中間テストの会議が入ってっちゃって」って断られてしまった。
もちろん、先生とデートできるのは嬉しいことだ。
でも他の用事でデートに行けなくなるのは至極正常なことだ。
先生の気分は落ち込んでいるようだ,デートに行けないからといって、先生にはプレッシャーも罪悪感も感じてほしくない。
この週末はデートする予定もどこかに遊びに出かける予定もなく、なんだか物足りない。
もしかして中間テストが終わるまで、先生と私はずっとこんな感じなのかな……?
職員室を出てから、私はまっすぐ教室に戻らず、廊下の窓から見える中庭の花壇を見て考えていた。
中間テストが終わっても、その二ヶ月後には期末テストがある。
期末テストは、恐らく今とは比にならないくらい忙しくなる。
高校で過ごす三年間は……長いように見えてあっという間なのだ。
先生が私に何かを求めているのは、最初から分かっている。
中間テスト、期末テストが終わっても、後二年足らずで私は忙しい三年生になって、大学受験を経てこの町を離れることになるかも知れない。
その時、私はまだ先生の求めるものを今みたいに与えることができるなのか……?
もし与えられなかったら、その時私と先生はどういう関係になるんだろう……?
先月みたいに、毎週末先生と過ごせるような時間はきっと無限じゃない。
……いくら考えても、私にはそんな遠い未来のことを正確に思い描けはしない。
とりあえず今は、今できることを精一杯すればいい。
中間テストはあと二週間。
このひと月、存分に高校生活を楽しんだ。次は勉強を頑張らなければならない。
趣味も成績も私は全部欲しい。私は……貪欲に生きるんだ!
……しようとした夜、スマホが鳴った。
てっきり先生からの電話かと思いきや、画面に表示されたのは林恵来の名前。
恵ちゃんからの電話だ。
通話を押してすぐ、恵ちゃんのハツラツした声が聞こえた。
『ごんばんは、友理ちゃん!』
『恵ちゃん、どうしたの?』
『うふふ、花の金曜日おめでとう!』
『き、金曜日おめでとう……』
何がおめでとうなんでしょ……?
用事がある時にしか電話しない私と違って、恵ちゃんは雑談するために電話をしたがるタイプのようだ。
この間も、小説が掲載されるという知らせを聞いただけでわざわざ電話してきてくれた。
今回もそういった類の電話なのかな……
『あのね、友理ちゃん、良かったら……』
『うん、なに?』
言葉の前半部分を聞いて、遊びに誘われるのかなと推測する。
でも週末は勉強すると宣言したから、遊びには出かけられない。
断るのは心苦しいけど、仕方がない。
どうやって断ろうか、と考えた時。
恵ちゃんが少し間を置いて、言葉を発した。
『明日、一緒に勉強会しない?』
うん?勉強会……?
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