第5話 部活

毎週木曜日午後の二時限は、学年クラスを問わず自習となっている。

学校の推奨の元クラブ活動や部活動を行う時間に当てられている。

私が所属している部活『ココ部』もこの時間に定例会を開いている。

「はい、友理また遅刻ね。教室同じ二階にあるのになんで毎回一番最後になるかな?」

急いで走っていくと、部長に小言を言われてしまった。

「えぇ…、でもチャイム鳴ったばかりですよ?」

『ココ部』は部員数が私を入れてたったの四名しかいない、全校で一番部員数の少ない部活である。

ココ部という名前は、有名な漫画雑誌『CO-CO!ココ』から取ったもので、その由来の通り二次元文化に関連した活動をしている。

今私の前にいる三人は、一見普通の美少女達に見えるが、実はれっきとしたオタクたちである。

故に、彼女たちがつけたらしい部活名も変なものになっているのだが、部員が増えない原因はこれかも知れない。

あまりに部員が少ないため、学校も部室なんて用意してくれなかった。

今はもっぱら二階の階段踊り場付近にある空き空間に椅子を並べて活動している。

「さて皆さん、今週末の清明節せいめいせつのご予定は?」

夏葵沙かきさ部長、通称部長が部員を見渡しながら聞く。

ストレートの黒髪をすっきりとポニーテールにして、凛とした、まさに大和撫子のような見た目をした先輩を初めて見た時は生徒会長か何かと思っていた。

だから、こんな小さい部活の部長と知った時は意外だった。

「実は今週末、東門とうもんの方で小規模なアニメフェアがあるんだけど、このチケット、学校に掛け合って経費で落とせるようになりました!ふふん!」

「あ、もしかしてこうりゅう展!?」

「行く行く~!」

尚美しょうみ先輩と藍千玲らんせんれい先輩が、葵沙先輩の言葉にはしゃぎだす。

一方私は話についていけてない。もしかしてアニメフェアがあるの知らなかったの私だけ?

「すみません、なんのアニメフェアですか?この時期に東門の方でアニメフェアがあるなんて初耳です」

「んー、規模は大きくないみたい。でも質は侮れないよ。以前は上海シャンハイでしか開催されてなかったんだけど、今年始めて深圳で開催されることになったの。主催者にとってはお試しみたいなものだから大して宣伝もしてなかったらしいし、知らなかったのも無理ないよ」

先輩のわかりやすい解説で、なるほどと納得した。

「直接海外から輸入したグッズとか資料もたくさんあるって聞いた!楽しみ~」

尚美先輩は随分と前からこのアニメフェアには注目していたらしい。

すでに行く気満々でワクワクしている。

尚美先輩はこの部のムードメーカーだ。

もし彼女がいなかったら、部活の雰囲気はここまで明るくなかっただろう。

「どうせ学校のおごりなんだし、友理も一緒に行こうよ」

部長が冷静沈着で、尚美先輩が元気溌剌だとしたら、藍千玲先輩はその中間のような人だ。

「聞いた感じ面白そうですね。じゃあ私も行くので…、よろしくおねがいします、部長!」

「よし、じゃあ全員行くということで、土曜朝十時にさい駅で待ち合わせね」

二次元関連のフェアなら……。

「あの、一人友達連れて行ってもいいですか?ネット友達なんですけど、こういうアニメフェア喜びそうな子なので。あ、もちろん費用は自分で払うので」

「友理の友達ならいいよ」

部長は即決でオッケーをくれた。

小さい部活は堅苦しい決まり事がないのがいい所だな。

こうして、私は先輩たちと土曜日にお出かけすることになった。

しかし、それが決定した次の日……。


「友理!明日デートしよ?ね?」

金曜日の職員室で、玖嘉先生がこそこそと私に話しかけた。

どうしよう……、明日先輩たちとの約束があるんだよな……。

「私その……、土曜日……」

どうにかして先生の誘いを断らなければ…。

先生の視線をそれとなくかわしながら、どう断ろうかともじもじ考える。

んー……、タイミングが悪い。

断ったら先生傷つくかな……。私のこと嫌いになったりしないなのか……。

でももう約束しちゃったし……。

「その、実は明日、他の人と出かける約束があって…」

ありったけの申し訳無さを口調に込めていう。

先生の方を直視できない私の耳に、戸惑いと落ち込んだ声が聞こえた。

「うん、そっか……」

その声の沈みように、私の心もズーンと重くなる。

「んー、じゃあ、夜は……?明日の夜は、時間ある?」

「夜……?夜だったら大丈夫だと思います!」

その提案に活路を見出した私は、やっと先生の方をまともに見ることができた。

「じゃあ明日の夜は私といようね?私どうしても友理と遊びに行きたいの~」

「はい、そうしましょう!」

その日の夜、私は部長に明日の日程を確認した。

午前十時に東門で待ち合わせ、昼食を取ったら会場に向かう。

アニメフェアは午後五時に終わるから、先生とはその後会えばいい。

『明日十七時に東門にいるので、そこで待ち合わせてもいいですか?』と、先生に送信した。

『分かった。時間になったら迎えに行くね』

相変わらずの即レス。

『本当は今夜友理デートしたかったのだけど、用事があって(泣)』

『どこに行ってたんですか?』

『他の先生方と食事をね。今もまだ店にいるの』

『ああ、飲み会ですか』

『うん、本当は着たくなかったんだけどね、断れなくて』

まぁそうだろう。

うちの学校の先生は大部分が四十代五十代の方々だ。

大学卒業してまだ一年と経っていない玖嘉先生が、その中で打ち解けるのは難しいのだろう。

『大丈夫ですよ。明日には会えるじゃないですか。今日はちゃんと他の先生達と親睦を深めてください』

『なんか男の先生みんなお酒が好きみたいでね。あなた達に歴史を教えてる先生なんか焼酎がぶ飲みしてて……。うぅ、つまんないよぉ。私は隅っこで黙々とご飯食べてるの』

歴史の先生の意外な一面を知ってしまった。

ベッドの上で先生とチャットする。

先生も時々、飲み会でなにが起こったとか教えてくれる。

楽しいことがいっぱいの、充実した一日になりそうだ。

期待を胸に抱いて、私は布団の中で目を閉じた。

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