第三.五夜 類は呼ばなくてもいい友を呼ぶ
第11話
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第三・五夜 類は呼ばなくてもいい友を呼ぶ
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「……で、この子、一体なんなんです?」
滑井が投げかけた質問も、尤もであった。
今夜の私には、お付きのヒトがいたのである。
……と、こんな風に書くと、いかにも私に秘密の彼女がいた、などという不埒な妄想を膨らます読者が雲霞の如く大量発生することはまず間違いないが、私にはそんな女性など存在しない。私はもっと、こう、謙虚なのである。自信をもって言うが、私はそのように不埒な恋の火遊びに手を出したことなど一度もない。むしろ、栄光ある独り身を推奨しているくらいである。
まぁ、短く言ってしまえば『モテない』の一言に収束する訳ではあったのだが、それはロマンのない言い方である。超風流な人(たとえば私とか)は、そんな言い方を好まない。
と、そんな駄文を書き連ねてもアラスカのカリブーが日経株価に及ぼす影響くらいの重要性くらいしかないので、場面を今に戻させていただこう。
わが今夜の『お付きのヒト』とは――、わが可愛い可愛い飼い猫のことであった。
イタい、と思われただろうか? ……まぁ、私は心が広いので気が付かなかったこととしよう。日本語は乱れてない。
「可愛いだろう? わが自慢の飼い猫、猫さまだ。この子は『化け猫』だよ」
「へ~。一目氏にもペットがいたんですねぇ。で、名前なんていうんですかい?」
「猫さま、だ」
「だから、その猫の名前ですって」
「猫さま、だ」
そこまで言ってやると、滑井はまさかという風に口元に手を当てて訊いた。
「もしや……、その『猫さま』ってのが名前ですか?」
「ん、そうだが? 何か変か?」
「……あ~、いやまぁ、ねぇ……」
そう言うと、滑井は憐れむべきモノでも見るような視線を寄こしてきた。
え、何で?
読者諸君、私は何か変なことでも言ったろうか? 私の完璧なるネーミングセンスに、何か問題でもあるだろうかいやそんなはずはない。……多分。
私は足元に付いてくる猫さまを見下ろした。猫さまも私を見返し、カクンと首を傾げるばかりである。
「いや……、まぁ……、今までそんな猫見たこともなかったですから……」
「まぁ実質、猫さまは私の家にいるほうが珍しいからな……」
この言葉は、結構控えめに言ったのである。
なぜなら私は知っているからだ――猫さまが、たまに美女に化けて夜の街に繰り出し、方々で男をたぶらかしまくっている、ということを。
道理でいつも毛の艶が良い訳であった。
なんと情けない、恥を知ればいいのにと思う。だがわが身を顧みれば、私とて偉そうに言える身ではない。所詮シイタケの背比べである。やはり、ダメな妖怪はそれ同士で群れてしまうのだろうか?
そんな私の内心も知らず、猫さまはぴょんと私の肩に飛び乗ると私の頬に頭をすり寄せた。
「ニャ~♡」
あっ、やばいダメこれ可愛すぎる……。
そうして私は、いとも簡単に猫さまに悩殺されるのだった。その、狡猾な笑みにも気が付かずに。
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