第三夜 妖怪が行く肝試し
第8話
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第三夜 妖怪が行く肝試し
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滑井が「肝試しに行きましょう」と言い出した。
それを聞いたとき、私はこう思った。
コイツ、頭にパンジーでも咲いたのか?
「なんと失礼な、一目氏!」
「あれ、口に出てたか?」
「夏といえば青春、青春といえば肝試しと相場が決まっているでしょうが!」
「悪いがどこを取っても頷ける要素がないぞ?」
「それは貴方がおかしい」
「まぁいい。だがな、何でわざわざ妖怪である我々が肝試しになぞに行かねばならんのだ?」
そう聞くと、滑井はよくぞ聞いてくれたというような顔で答えた。
「妖怪だからこそ、冷やかしに行くのが面白いんじゃないですか!」
「こっちが肝を冷やすのではなく、ってか?」
「上手いですね」
「お前に褒められても全然嬉しくない」
「とは言え!」
滑井はそう叫ぶと、一枚の紙を差し出した。
「行き先は隣町の墓地、日時と持ってくるものはそこに書いてあります。ねぇ、夜の裏道を彷徨ってるより、よっぽど面白そうじゃありません?」
私は紙に目を落とした。『滑井主催、夜の肝試し遠足』と大きく書いてある。あいつの精神年齢はマイナスなのか?
「……まぁ、良いだろう」諦めとともに、私は言った。
「よっしゃ! じゃ、そういうことで」
……この時、我々は知る由もなかった。
その墓地で、何が待ち受けているかなど。
――そして一週間後。
「ども、一目氏……って、何ですかその包みは?」
夜9時、待ち合わせ場所のバス停で落ち合った我々。私が腰に巻き付けた風呂敷包みに、滑井が目を付けて言った。
「これか? これは私の自家製・木綿豆腐だ」
「木綿豆腐、しかも自家製⁉ ……って、何故に?」
「知らないのか? 一つ目小僧は、豆腐が大好物なんだぞ?」
「いや知りませんって……。で、何でンなものを?」
「お守りだ」
「はぁ……。もう何でもいいです」
「腹が減ったら分けてやるぞ?」
「お断りです。ほぼ確定で腹壊しそうですから」
そんな中身の無さすぎる会話をしている内にバスが来て、我々は乗り込んだ。
「で? 今から行く墓地ってのは有名な心霊スポットなんだな?」
「えぇ、最近ちょっと地元で話題になってるんです」
「どんなモノが出るんだ? というか、何か出るのか?」
「それは――、僕も知りません。ネットでも証言があやふやなんです。まぁ、着いてからのお楽しみですよ」
滑井は、自分が知りたいことはあらゆる手段でもってサーチするような男だ。その情熱、もっとマシな方向につぎ込むべきだと思うのはここだけの話。
「全部お前のドッキリじゃなかろうな?」
「まさか。僕も今夜行くのが初めてなんですから」
我々はバスに揺られて、夜道が車窓を流れていった。住宅地を抜け小さな学校を通り過ぎ、景色はどんどんさびれていく。
あっという間に、我々は墓地前の停留所に到着した。
さっさと金を払ってバスを降りようとすると、唐突に運転手のおじさんが聞いてきた。
「君たち、ここの墓地で肝試しかい?」
「えぇ」そう答えたのは滑井。
「そうかい、気を付けなよ。ここの噂は本物だからね」
「……その様子、何か見たことがあるんですか?」私は聞いた。
「あぁ」と運転手。「あの墓地で夜に、何かが蠢くのを何度も見た。噂が立つ前からだよ」
そういった彼は、本当に震えているように見えた。
「そうですか。ありがとうございます」
タラップを降りた我々に、運転手は再び気を付けろと言うとすぐにバスを走らせて行った。
「さて、……」滑井がわくわくした顔で言う。
「いよいよお楽しみの始まりですね!」
「......どこがだよ」
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