第一夜 二鬼夜行

第2話

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 第一夜 二鬼夜行

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「遅いですよ、一目いちもく氏」

 午後七時に。私が待ち合わせ場所につくと、滑井ぬらいは既に待っていた。

 黄昏時、街灯の下で奴の姿が浮き上がる。

 滑井という男は、一度も日に当たったことのないような白い顔をしている。ぼさぼさの髪は少々紫っぽく、悪魔の代理人のように不吉な顔をしている。

 もし夜道でこのような男に出会っても、まず話しかけてはならない。もし会話など交わせば奴の不幸が乗り移り、家のパソコンがコロナウイルスに感染する、靴の中にゴキブリが一大コロニーを作る、手持ちの筆記具が全てアスパラガスに変身する等々、不可解な不幸に次々と見舞われ、遂には正気を失ってしまうことであろう。

 滑井とは、そんな雰囲気の男である。

 そして歩く不幸醸造機こと、この男と私とは昔からの腐れ縁なのであった。


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「一目氏、僕を1分27秒待たせた大罪により、あなたに87円という大金を請求します」

 滑井はニヤニヤ笑いを浮かべた。

「......お前の頭の中じゃ、日本は空前の円高らしいな。それにそもそも、待ち合わせ時間には間に合ってるんだからセーフだ」

「そんなつれないこと言っちゃって。一目氏に早く会いたくて、急いで来たってのに」

 ついでに『一目いちもく』というのは、私が対外的に名乗っている名字である。少なくとも『滑井ぬらい』よりはセンスがあると思っている。

「うるさい。さっさと出発するぞ」

 そういうと、私は滑井の手を引っ張って歩き出した。奴はブツブツ言っていたが、すぐに並んで歩き出した。

 私たち二人はこんな風に毎晩、夜通しで連れ立って散歩する仲である。

 そしてしょっちゅう、禄でもない事件に巻き込まれる訳であったが。

 我々はこの散歩を、先人の妖怪たちに倣い『二鬼夜行』と自称していた。

 まぁその実態は、ただの夜道徘徊ではあったが。


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 古き『百鬼夜行』の行われていた時代、妖怪は全盛期であった。

 先人たちがホントに百種も集まっていたかは知らないが、相当な数の妖怪がどんちゃん騒ぎをし、夜道を練り歩いたことであろう。

 それが、今はどうか?

 情報社会の発達で妖怪は隠れ住むようになり、同志たちは散り散りになった。

 もし今の時代で百人も集まろうものなら、即座に通報されて県警機動隊により変質者のパレードとして一斉逮捕されるのがオチである。

 まぁ、我々二人だけでも十分に胡散臭い絵となることは間違いないのだが。



「し~かしやっぱり、その恰好は似合ってますねぇ一目氏」

 滑井がねっとりとした口調で言う。

 私はキッと視線を向けたが、言い返しはしなかった。

 さてここで私は、とある恥ずかしい事実を述べなければならない。まぁ無論、恥的感覚は人それぞれではあるが、こればかりは読者も赤面間違いなしであろう!

 それか若しくはドン引かれるか、だ。

 読者諸君、驚くことなかれ。

 今の私は、女装をしていたのだ。


 如何にして私は、かくの如き有り様になりしか?

 では、回想シーンスタート。


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