ショートショート

るあす

 亀って癒されるよね、とだけ書かれた手紙が私の机の上に置かれていた。誰が、何のために、どうして、疑問は尽きない。私宛てじゃないことも考えたけど、窓側の最後尾なんてこんなわかりやすい席と間違えることなんてないはず。私宛てだったとしてなんで亀なんだろう。わからないことだらけだ。

 手がかりもないのに考えてもわかるはずないし、取り敢えず1限目の準備をしようとして気づく。そうだ、1限目は生物だ。じゃあ誰かが私と話したくて……?でもだったら手紙じゃなくていいし……。思考が廻り始めたあたりで突然背後から声をかけられた。

「あの」

「えっはい」

完全に自分の世界に入っていて声が裏返った。恥ずかしい。顔を上げるとそこには名前も曖昧にしか覚えていない、もちろん話したこともない同じクラスの人がいた。まさかこの人が差出人…

「そこ、私の席なんですけど……」

「……すみませんっ!!!」

教科書や筆箱を鞄に詰め込み急いで立ち去った。頭が真っ白になった。顔がアツくなるのがわかる。アツいのが面の皮ならキョドらなくて済んだのに。

 それからのことはあまり覚えていない。ただひとつわかるのは、先週の金曜日に席替えをしたことを私が忘れていたということだけ。なんということはない、とても恥ずかしい思いはしたけど、それだけの話だった。

 あぁ。穴が、いや甲羅があったら入りたい。

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