第24話 悪を滅ぼす呪文


「怖がっているね。本当に怖がっているね。君という悪魔が正義に粛清されて慟哭している。――これだ。アハハ、正義が復活した……」


 正義とナイフってどこか似ているな、と僕は思う。


 使い方を間違えれば、心臓を止めることもできるし、平和的に使えば、舌をうならせる温かな料理だってできる。


 ナイフの方がよほど静かなのかもしれない。


 正義は目に見えないから証拠も残らないし、時代や国によってコロコロと基準が変わる。


 それだけじゃない。


 正義はウズウズと骨まで溶かしきってしまう。


 僕はその正義が理解できなかったから、罪のない女の子たちを殺した。


「ごめんなさいっ」


 殺してしまった。


 いや、故意に、自分の欲望のために殺した。


 僕は正義が怖い。


 キリキリに刻まれた正義が怖い。


 欲望や裏切りよりも怖い。


 ……もう、怖いという言葉を使わないようにしよう。


 じゃないと女の子たちがあの世で泣いてしまう。


 この刑務官が言うように僕は罰をもらわないといけない。


 血を吐くまで抱かれる、という拷問によって自分が曇りのない悪だということを噛みしめなくちゃいけない。 


 でも、痛い、すごく痛い。


 どうかなりそうだった。



 我慢しろ、同じ目に遭うように神さまは罰を下してくれたんだ。


 感謝しなくちゃいけない。


 そう、これは楽しいことだ。


 息切れも止まってしまった。


 死んでもこの男は僕を抱くのだろか。


 もう服も奥に隠れている。


 男は急にナイフを隠した。



「怖くて泣いているんだね。顔がびっしょりだよ」


 顔が濡れているなんて気づかなかった。


 瞼に涙が割りこんでビチャビチャしている。


 泣いてはいけない。


 泣いたら、罪がますます重くなる。


 泣いたら、あの子たちが天国で泣いてしまう。



「もうちょっと我慢してごらん。君は正真正銘の悪魔だ。悪魔は赤い涙を永久に流さないといけないのさ。そのうち、君は後悔する。生まれる前に地獄へ堕ちた方がせめての救いだった、と」


 何とか言えた。


 やっと言えた。


 自分を滅ぼす呪文が。


 悪を滅ぼす呪文が。

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