第22話 黒い花


 体重が思いきりのしかかって、這うようだった。



 どこかで読んだ小説の娼婦のように肢体をくねらせたら、この男は僕を甘くなじるだろうか。


 怖い、なんて幸せな人以外が使う言葉はここでは思ってはならない。



「痛いだろう? すごく感じちゃうだろう? どんな凶悪な殺人鬼でもここをやられたら痛いものなんだ」


 痛い。


 とても熱い。


 思わず縮めようとすると、べたべたの手が奥へと入り、深く重なった。



「不幸な子どもを傷つけたら、悪を倒せた、と思えるんだ。俺はそんなときがすごく快感でね。――さあ、ミノル君、声を出しなよ。嫌だとか、やめてくださいとか、生まれてきてごめんなさいとか、自分自身を犯すんだ。血を吐くまで悪だということ噛みしめるんだよ。……それが君に唯一残された贖罪なのだから」


 空気にさらされた太腿がシーツの表面に当たる。


 ほとばしった温もりが僕を襲っている。


 


 汗がぬるい。


 僕はこれを拒めない。


 男は器用にボタンを開けた。


 生地がクシャリと折れ曲がる。


 


 ゆっくりとボタンは花開く。


 なぜ、黒い花は夜に咲くのだろう。


 息の底がさらに深くなった。


 肌が夜の冷気に晒される。


 男の口から息が漏れているのがわかる。男が微笑んだ。



 その目。


 黒い瞳孔が大きく開かれた目。


 瞼は汗の海になる。


 僕の瞼に触れた、その手はとてもぬるぬるしていた。


 その手が徐々に交わる。


 もう片方の手で胸に触れる。


 チクリ、細々と痛む。


 振動がのたうち回るように迫ってきた。


 


 ……罪を認めなきゃ。


 罪を認めなきゃ。


 どうして、みんなは自分の中の悪を疑わないだろう。


 自分がいつか知らないうちに誰かを殺しはしなくても、精神的にズタズタにしてしまうようなことをするかもしれないのに普通に振る舞っていられるのだろう。


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