第19話 月光少年


 ギュッと、ギュッと。


 息が臭い。


 空気を何度も吸う。


 目を閉じれば罪を犯す前の自分に戻れそうで、記憶を掴もうとした。


  


 何も思い出せない。


 神さまがせめての慈悲で記憶を奪ったのだろうか。


 奪わないでほしかった。


 罪を噛みしめられたのに、罪を愛せたのに。


 


 目を開ける。


 大きな窓からは月明かりが漏れていた。


 白い衣を纏った光は斜めになって床を白く染めていた。


 僕の身体も白く滲んでいた。


 シーツがさらさらと清らかな絹に見えた。


 立ち上がって窓の隙間から見える満月は本当に綺麗だった。


 月の光はこんな僕にでも光を与えてくれる。


 


 月が僕を抱いてほしいと思った。


 月に抱かれて僕が消えてしまえばいい、と思った。


 月が闇をさらっていく。


 月が闇を白く染めていく。


 


 盗人がこそこそと宝物を隠すように月は闇をさらっていく。


 月が空をさらっていく。


 


 どこまでも、どこまでも高く。


 物思いに耽っているとドアから物音がした。


 コソコソとその足音の主はベッドの前にやってきた。



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