月影を喰らう鬼

第18話 月を抱く少年


 くすんだ空気を吸うのも嫌だったから、あの独房に戻ろうした。


 あそこで、僕という人間は死んだんだ。


 でも、待てよ? 


 探しても見つからない。


 綺麗さっぱりとなくなっていた。


 いや、こんなことあるわけない。


 あるのはいやに清潔感のある、木目の廊下と個室を隔てている丸い窓つきのドアだけだった。


 


 こんなことあるか。


 こんなことあるか。


 僕はこの世で唯一の居場所さえも失ったんだ。


 あそこで僕は鎖で繋がれておきたかったのに、これもあの磯崎の仕業だ。


 


 廊下でくるくると回っていると、看護師に気づかれた。


 君の個室ならここだよ、服や洗面器はロッカーにおいてあるから、と部屋を案内された。


 左側の壁にベッドが置いてあった。


 長い机が右側の壁にくっついてある。


 それが写真のようにも見えてしまった。


 僕はそのまま、布団の中に潜った。


 布団の中は氷のように冷たかった。


 丸まって目を閉じる。

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