第16話 ミイラの帯
たぶん高校生くらいだろう。
少年院では男なら、みな丸刈りにされてしまう、とどこかで聞いたことがあったけれども、彼の頭は伸び放題だった。
僕はすぐに目線を外した。
手の先から委縮するのを感じた。
「中学生でここにいるなんて大変だな。俺なんか、あの磯崎の命令で無理やり入れられちゃってさ、早く外に出たいつうの。1日中、ボーと過ごすしかないねえな。たまにOTがあるか。あんなの、ただの暇つぶしだって! 折り紙したり、クッキー作ったり、小学生のガキと卓球したりしたか。あれってお遊びだな。あっ、前はビーズ細工したか。俺たち男だし、ガキじゃねえのにな。こんなところで一生過ごしたくはねえよ。お前なんか義務教育も済ましてないんだろう? 俺、中学のときなんか、部活ざんまいだったから。これでもサッカー部だったんだぜ」
高校生活だって?
この人は何を言っているんだろう、と僕は軽蔑を隠すのに必死だった。
あの医務官が磯崎という名前だということは役に立つかもしれないけど、それが何だって言いたい。
この人もあの医務官によって治療されているんだろうか。
僕もこの人も病人。
心も身体も壊れてしまった人間。
優しさも凍ってしまった人間。
ミイラの包帯が簡単には剥がせないように、僕の身体を覆うこの皮膚も、忌まわしい罪と密接にくっついている。
もう、人間そのものが腐っているんだ。
僕は一番やってはいけないことをしたんだ。
あんたは被害者のために申し訳ない、と思ったことが一度でもあるのか、と怒鳴りたくなった。
あんたは全然反省していなように見えるね。
じゃないと、そんな軽々しい言葉が口から出てくることなんてない。
「まあ……。おたがいに頑張ろうぜ。お前だってまだ先が長いんだし」
僕は無視という抵抗をした。
ムダ口なんて聞いたらいけない。
僕は肩が強張り、向こう脛までヒリヒリするのを感じた。
腕をかきむしった。
腕を触ると、洗濯板のようなかさぶたが何層も重なっている。
何のために自身を傷つけていたのかは覚えていない。
己を罰しようと思っていたのか。
腕を見ると傷は生々しく、切りすぎたせいか、ケロイド状の山になっていた。
院生は僕の腕の傷に気づいたのか、ぎょっとなってつぶやいた。
「お前ってリスカするんだ。わあ……」
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