第13話 モノクロのタイル


 男性看護師が僕を残念そうな目で見ている。


 僕は思わず見るな、と言いそうになったけれども、それも我慢した。


 鍵がカチャンと鳴る。


 廊下へ出ると、壁にはモノクロのモザイクが隈なく描かれていた。


 目が回ってしまいそうだった。


 かたちあるものがここにはないように感じた。


 


 僕はそれをただ見つめる。


 奥に行けばいくほど、モザイク模様は薄れ、だんだん視界が開けてきた。


 そこは多目的ホールだった。


 僕と同じ年頃の子どもがテレビを見ていた。


 中には奥の畳の上で、カードゲームをして遊んでいる子もいる。



「個室でこもっているよりも、ここでみんなと過ごす方が心のためにもいいんだよ。君もここの子たちと仲良くするといい」


 仲良くする? 


 それで打ち解ける?


 僕は人殺しなんだ。


 誰も受けつける人なんていない。


 僕はまばたきを繰り返した。


 医務室へ行って先生と話そうか、と男性看護師が僕の肩を叩いた。


 僕は不意に肩から逃げた。


 


 おそるおそるふりかえり、表情を確認する。


「まだ受け止めきれていないんだ。先生、ふたりきりで話されますか」


「まだ様子を見よう。その方がこれからのためにもいいから」


「パニック寸前ですよ。こんなに顔色が悪いし」


「切り替えるのも大事な訓練だからね。これからの長い人生のためにも」


 

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