異世界の果ての如く

第12話 壊れた鎖


 目の前にあの刑務官ではなく、医者が立っていた。


 どうして、こんなところに医者なんているのだろう。


 ここは刑務所ではないのか。


 その医者は僕の前に座りこんだ。



「――君はまだ若い。こんなところでウジウジしていても何にも変わらないよ。さあ、病室に戻ろう。もうすぐ夕食の時間だ。ホールには君くらいの年齢の子がいっぱいいるよ。たまには同世代と話すのも大事だ。今の君にはちょっとつらいだろうけど、ここで踏ん張れば必ず道が開けてくる」


 この医者はきっと少年院の医務官なのだろう、と僕は思った。


 少年院にも医者がいるところがある、と聞いたことがある。


 


 確か、医療少年院というところだ。


 そんな情報を僕はいったいどこで知ったのだろう。


 別にどこだっていい。


 鎖は医務官が手をさすっただけ瞬く間に消え去った。



「さあ、歩こう」


 長い間、座り続けていたから足に痺れを感じたけど、何とか立ち上がれた。


 もうひとり男性看護師もいる。


 僕の腕を抱えて看護師と医務官は歩き出した。


 


 こんな優しさをもらって、果たしていいのだろうか。


 血を吐くまでここで懺悔しないといけないのに、これは死んだ女の子たちを冒瀆することだ。


 思わずハッとなって男性看護師の手を強く握りしめた。


 男性看護師と目線が合い、僕は思わずひるんだ。



「先生、本当にこれで治るんでしょうか。あんなことがあったのに」


「それを今は言ってはならない」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る