第10話 記憶という映画


 空気の線が張りつめている。


 遠く過ぎ去った夏を恋しがっているように感じた。


 もういい。


 今は秋だ。


 そんな簡単には都合のようにはいかない、ということをこの独房の暗い青は教えてくれる。


 日の光を寄せつけない、青い闇の底。



「覚えているよ。罪の記憶くらい」


 記憶と対話して見る。


 記憶という映画は何にも映らない。


 眠ってもしょうがない。眠ったところで何になるのだろう。


 僕はあの刑務官が言ったように一生ここにいるんだ。


 せめて、僕は記憶をこじ開けないといけない。


 ――記憶を呼べ。記憶よ、どこかへ繋げ。


 どこかに。



「思い出せ、思い出すんだ」


 何も浮かばない。記憶というスクリーンは真実を映してくれなかった。


 ゾッとした。


 記憶さえかき消したんだ。



「なぜ? なぜ? どうして?」


 コンクリートの床が冷たい。


 怖いくらい、ツルツルと磨かれた床は僕の罪を拒んでいるようだった。


 無菌の空間で僕は息をしているだけだ。


 死んで償えば……、いいのに涙も出ない。


 爪が割れるような怒りが噴き出すと、僕は何度も自分の頭を壁に押しつけた。


 何度も叩きつけ、痛みで意識が遠のくまで叩きつけた。



 

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