第7話 檻の鍵
目を閉じるしかない。
ゆっくりと、ゆっくりと手は奥に流れ落ちる。
徐々に熱くなる。ジュウッと架空の音を立てて、背中が緩む。
何も感じない。
痛みすらしない。
ただ、ずいぶん荒い手つきだな、と僕は思う。
この肌のべたつき。鼻につく、卵が腐ったように臭う汗。
背中に残る指先の道のり。
荒い吐息。
一瞬どこか懐かしいな、と思った。
外の世界で、僕はこんなおぞましいことをしていたのだろうか。
思わず僕は自分自身に対してゾッとした。
男はまだやめない。
別に抵抗もしなかった。
これも神さまが与えた罰なのだろう、と思った。
僕が罪のない子どもを殺めたのなら、これで罪滅ぼしになれるのならいい、と思えた。
これが普通だった。
これが。
一生こんなことをされるのだろうか。
「--君は根っこから腐っているからな。いいなあ、どんなに身体を穢しても、心はちっとも汚れない。チッ、痣さえなければ完璧なのに。おやおや、そんな目で見るのかい? 久しぶりに肌に触れて楽しかっただろう。ちょっとは反省したらどうかい? おやおや、君はこんなことをされても平気な顔をしている」
男は舌打ちをした。
檻の鍵が閉まる音がする。
「待って? もっと触って、さわって。うう……」
ガチャンと沈黙が残る。
とりあえず、僕はずれた下着を持ち上げた。
仲良く話せなくて残念だな。
誰もいなくなってしまった。
今さらになって足の間がヒリヒリする。
「……知らない。もう、知らない」
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