第6話 どこにでもある目


「何も覚えてねえんだな。チッ、可愛げがない」


 思わず短く悲鳴を切った。


 男が何をしだすのか、何となく予想はついた。


 男は僕の前にかがんでから、顎を掴み、這うような時間をかけて近づいてきた。


 


 その目は普通の中に悪を見るような、どこにでもある目だった。


 背中を撫でられる。鎖は頑丈だった。



「痛くないようにはするさ。……ちょっと我慢してごらん?」


 大きな顔が目の前にあるのを僕は感じる。


 


 ケーキに包んであるプラスチックの包みを舐める子どものように男の唇を舐める。


 唇は滑らかに濡れる。


 


 ヒリヒリする。


 唾液がほどよく絡み、身体のうちからじんわりと入っていく。


 前歯が開く。


 奥まで舌がやって来る。


 咽喉まで届きそうになるまで秘密が開く。



 声が漏れる。唾液が飛び散る。



 

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