第4話 狼少女と学園の自警団

「それにしても、友達はできなかったかあ。あの二人なら、上手くやってくれると思ったんだけど」

「あの二人?」


 首をかしげたその時、不意に部屋のドアがバンと大きな音を立てた。

 そして。


「トワ先輩! 何ですのあの礼儀知らずな狼女は。いくら先輩の頼みでも、あんな知性も品格もないような方と友達になんて……えっ?」


 部屋に入ってくるなり声を荒立てたソイツは、アタシと目が合うと驚いたように、ピタリと足を止めた。

 そして驚いているのは、アタシも同じ。この香水の匂いをプンプンさせている、金髪縦ロール女は……。


「エミリィ・チェ……なんとか!」

「エミリィ・チェルダーですわ! そこまで言えるなら、ちゃんと最後まで覚えなさい!」


 ああそうか、エミリィ・チェルダーだ。

 頭に青筋を立てて怒っているのは、今朝のケンカの相手、エミリィ。

 けど、なんでここに? 


 すると遅れてもう一人、今度は男子生徒が入ってくる。

 って、こっちにも見覚えがあるぞ。


「またケンカする気か? 今度は止めないぞ」


 気だるそうに言ったソイツは、黒髪に黒の瞳の男子生徒、ハイネ・マスカル。 

 何でこいつら、次々やって来るんだよ。


「お前ら、どうしてここに?」

「どうしてですって? わたくし達はガーディアンの一員、来て当たり前ですわ」

「へ? ガーディアン?」


 そう言えば昼間、そんなことを言っていたような。それにこの部屋には、ガーディアン本部って書いてあったっけ。けど、ガーディアンって何?

 首をかしげていると、トワが口を開く。


「ガーディアンって言うのは、生徒による自警団のことだよ。この街は飛び抜けて危険ってわけじゃないけど、裏街の方に行けばガラの悪い連中もいて、うちの生徒がトラブルに巻き込まれる事もあるからね。それらから守るために結成されたのが、ガーディアンなんだ」

「へー、そんなのがあるのかー」


 前いた学校にはなかったなー。

 なんせ故郷の森に住んでいる魔族は、みんな穏やかだったからなあ。田舎より街は治安が悪いって聞いてたけど、本当みたいだ。

 で、トワもハイネもエメリィも、そのガーディアンの一員ってわけか。


「学校内でケンカやトラブルが起きた時なんかも、ガーディアンが間に入って納めてる。要は、学園の治安維持を目的とした組織かな」

「そんな事までやってるのか? ガーディアンってスゲーな」


 そう言えばハイネが今朝、エミリィとのケンカを止めた時、ガーディアンが騒ぎを起こしてどうするって言ってたっけ。

 ハイネに目をやると、何かを察したように溜息をつく。


「俺達は毎日忙しいんだから。くれぐれも、今朝みたいな事は止めてくれよ」

「悪かったって。ん、じゃあひょっとしてここって、そのガーディアンが集まるための部屋か?」

「そうだけど、今まで何だと思っていたんだ?」

「うーん、トワ専用の私室とか?」


 よく考えたら、そんなわけ無いんだけどさ。

 するとハイネ、途端にプッて吹き出しやがった。こら、笑うな!


 なんだよ、ちょっと間違えただけだっての。

 けどこいつの笑ってる顔、初めて見たな。普段はクールな感じだけど、笑った顔は案外可愛いじゃん。


「まあトワ先輩の専用部屋じゃないけど、この部屋の長ではあるな。何せガーディアンの団長だから」

「え、そうなの? トワスゲーな」

「別に大したこと無いよ。団長と言っても、皆に支えられてばかりだしね」

「トワ先輩、そんな謙遜なさらないでくださいな。むしろわたくし達の方が、先輩に助けられていますもの」


 アタシとは一触即発だったエミリィも、トワへの態度は柔らかなもの。

 だけどそれも束の間。怒った声で「ただし!」と言ったかと思うと、アタシに目を向ける。


「いくら先輩の頼みでも、こんな狼女と仲良くするなんてできませんわ! 会ってそうそう失礼なことを言う、デリカシーの欠片もない人なのですよ!」

「だからアレは、そっちが言えって言ったんじゃねーか」

「だとしても言い方ってものがあるでしょう! だいたい、に、に、匂いがキツいなんて、レディに言うことじゃないでしょう!」

「アタシにとっては、ハッキリ言っておかなくちゃならない大事なことなんだよ。今だって、鼻が曲がりそうなのを我慢してるんだ!」

「何ですってー!?」


 さっき注意されたばかりだってのに、またもケンカになる。

 コイツが悪いわけじゃないって言うのは分かるけどさ、ヴァンパイアがニンニクの匂いがダメなのと同じで、どうしても無理なんだよ。

 一方トワとハイネは、困ったように顔を見合わせている。


「なあハイネ。いったい二人に何があったの?」

「まあ、色々。先輩、残念ですけどこの二人が仲良くするのは、無理っぽいです」

「そうみたいだね」


 残念そうに、困った顔をするトワ。


「ちょっと待って。もしかしてさっき言ってた、あの二人って言うのは」

「ああ。エミリィとハイネには、今度クラスに魔族の子が転校してくるから、友達になってあげてって頼んでたんだけど、ダメかな?」

「お・こ・と・わ・り・し・ま・す! こんなのと友達になんて、なれるはずありませんわ!」


 不機嫌を隠そうともせずに、腕を組むエミリィ。なるほど。コイツが声をかけてきたのには、そういう理由があったのか。


 それじゃあ、ハイネの方は?


「俺は初めから承諾してない。いきなり友達になれって言われても困る。だいたい友達って、なろうと思ってなるもんじゃないだろ」


 まあ確かに。言い方はぶっきらぼうだけど、間違ってねーな。


「なるほど、ハイネの言う通りかもね。けどクラスメイトとして、何か困ってたら力を貸してあげてね」

「……善処する」


 またもぶっきらぼうな返事だったけど、コイツなりに前向きに考えてると思って良いのかな。


 とは言え新しい学校での生活は、課題が多そう。

 トワ目当てに転校してきたけど、軽率だったか? これは馴染むのに時間が掛かるかもしれないなー。

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