2.歌舞伎町は怖い街?

 新宿歌舞伎町は、不夜城とも呼ばれる日本一の歓楽街である。人間の欲望を正面から受けとめ、ありとあらゆるサービスが提供され、そしてそれを買う人間が毎日大挙してその場所を訪れるのだ。


 酒……娯楽……性風俗、おおよそとは言えないかもしれないサービスが提供される場所もある、それが歌舞伎町だ。


 その街を闊歩する人間の中に、私もいた。成人するちょっと前の十九歳の頃から、その街に出入りしていた。その時の目的は、歌舞伎町の奥にあるラブホ街に出入りするためだった。歌舞伎町の雑踏を通り抜けると、奥にはラブホテルが乱立している。そこに私は恋人と出入りしていた。


 年若い私は、そこが『怖い街』だという認識はなかった。ゴミゴミしている大人の街。それくらいの認識だったろう。


 恋人と破局して、間もなく成人を迎えると、そこは私にとって酒を飲む場所となった。女友達や男友達と、頻繁に居酒屋やダイニングバーに出入りした。その時もやはり、『怖い』という感情は無かった。美味しい酒が色々な店で楽しめる場所。それくらいの感覚で歌舞伎町に出入りしていた。


 しかし、その頃から私はこの街に何か物足りなさを感じるようになる。これだけ何でも揃っている街で何が不満なのか? その正体が、年若い私には分からなかった。


 そう、歌舞伎町を十センチのヒールで闊歩していたあの頃は、分からなかった……。

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