8話 あなただけ見つめてる⑧ 依頼者
落した物?
何故過去形なんだ。
まず最初に疑問に思ったのはそれだった。
けれど、僕に構わず――天使、と僕がそう呼び、天使自身がそう名乗った――そいつは話を続けた。
「そうだな。君から天使と呼ばれるのは何か嫌なんだ」
それはお前が上位の存在だからだろう。
天使は天に遊び、人間は大地で遊ぶのだから。
天使からすると、見下すのもまた遊びの内にあるはずだ。
僕が何故、これほど天使について熱弁するのか。
自分にも分からなかった。
「僕を、ヨベルとでも呼んでくれ給えよ」
ヨべル……。
ヨべルは舞台劇場の俳優のような振る舞いで僕の周りを浮遊する。
僕はもう一度、周りを見渡した。
小説に書かれていた明星の花、その花園。
ヨベルはこの場所を〈
確か、生者と死者の世界の境目にあると言われる坂……。
ならば、ここへ行くための方法も少しは理解できるかもしれない。
でなければ、刃物を頭に突き刺すなどと言う、自殺を図る阿呆のようなことはしない。
そんな僕の考えを全てお見通しなのか、そしてその考えを前提に、ヨベルが耳元で囁いてきた。
「けれど、君はまだ死んではいないからここへ居られるタイムリミットがある。手短に、僕が君に望むことを伝えることとする。これは、僕ら天使には出来ない所業。天使は人間を祝福するが、手を出すことは出来ない掟なんだ」
耳元で囁いていたはずのヨベルがいつの間にか、僕の目の前で浮遊している。
その雄大な翼を翻すと、光輪が強く光る。さながら神々しく。
その光輪から膨らむように生まれた――ペンタグラムの形をした光が天使の手の中に収まった。
「これを君に託す。これで君は僕の依頼を完遂し給え」
「一体、何を――⁉」
次の瞬間。
ヨベルが「またね」と爽やかな声で一瞥すると、地平線の彼方まで広がっていた明星の花園が消失した。
力場が無くなり、僕の体がどこまで重力に従って落下していく。
無力感に体が支配され、意識が徐々に消えゆく中で、僕の脳に響いたのは、次の言葉だった。
『天海萌芽を排除しろ。〈黒い
あの奇妙で自分勝手な天使へ――文句の一つでも独り言でも吐きたかったが、残念ながら僕が眠りにつく方が先のようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます