7話 あなただけ見つめてる⑦ 邂逅
——目を覚ますと、目の前に広がっていたのは花園だった。
足元を覆い隠すほどの明星の花。
明星の花は金木星に似ていて、だが線香の焦げたような香りが広がるのだという。
小説での表現と同じだ。
その匂いが鼻の奥を突く。
嫌いではない。
勇気を出して足を一歩踏み出す。
すると足元の明星の花が瞬きもせぬうちに消滅する。
その痕跡も残さず、まるでそこには存在すらしなかったように。
一歩。
さらに一歩。
一歩、一歩、一歩。
リズミカルに足が鳴る。
芝を踏みしめる心地よさが、体に快感として伝わる。
そこからは下り坂で、駆けていくのも面倒だと思い、僕は勢いよく前へ飛んだ。
ふわりと宙に浮く感覚……いや、実際に少し浮いていた。
今思うと、足取りが普段よりも軽かったから、もしかしたら重力とかそんなんが掛からない場所なのかもしれない。
軽く十数メートルは飛んだだろう。
いつまでも広がる明星の花。
終わりは見えない。永遠に続く。
その時、空に二つの球が浮いた。
誰しもが見たことのある太陽と月。
誰しもが見たことのない、空に共存する太陽と月。
「すげえ……」
僕はポツリと声を漏らす。
――お気に召してくれたかな?
空間に響く声が、僕の興奮を収めた。
そして求めていた、あの化外の声。
僕の顔から奇妙な笑みが止まらなくなる。
待っていたぞ。
僕は背後を振り向いた。
目の前で、地から浮く翼を持った存在。
極めつけは、そいつの頭上にある天輪。
それが何であるか、イメージできる名詞はある。
「天使」
「そう、僕は天使。君をこの〈黄泉平坂〉に招待した」
天使は続ける。
「君に頼みがあるんだ」
何かが狂う歯車の音が、脳内を支配する。
その手元には歯車を回すレバーがあった。
僕はレバーに振れ、そしてそれを思いきり回した。
もう誰も止められない。
天使は告げる。
「僕たちがオトしたものを探してきてくれないか?」
これが僕の人生を狂わせる始まりだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます