第38話

☆☆☆


りえ、国方、ソラが一緒になったのは、学校へ行く途中での事だった。



一睡もしていないが、サヤカと安田のことも気になって、学校へ行かずにはいられなかったのだ。



「ねぇ、りえ。あの赤い扉ってさぁ」



ソラが、痛い足をかばいながら言った。



「うん?」



「夢で見たって言ってた家、元々扉が赤かったよ」



ソラの言葉に、りえは夢の中の家と、母親が砂に書いた家を照らし合わせる。



「うん。あんな家に住むのが夢だって、お母さん言ってたから」



そう言うりえに、なるほど、と国方は頷く。



その思いが強くて、町の人々を追いやってまで赤い扉にこだわっていたのだ。



「まぁ、すべてはりえの母親のおっちょこちょいが原因だったんだね」



「りえちゃんにはそのおっちょこちょいは遺伝してねぇよなぁ?」



少し怖い、と言いたそうに国方がりえをつつく。



「大丈夫よ! いくらなんでもお母さんほどじゃないから」



少し膨れて、りえが一言、そう返した。


☆☆☆


学校で、五人は再会した。



「全く、人騒がせな」



教員用の椅子にすわり、国方が飴を取り出して食べる。



「あれ? 飴?」



ソラが少し驚いたように言う。



「もう地下室なんて行きたくねぇから。タバコはやめた」



「当たり前でしょう。まだ未成年ですから」



メガネを直し、安田が一言。



そんな時、扉が開く音がして、教員の一人が入ってきた。



五人がそちらへ顔を向けると、この学校で一番頭の固い女、数学の戸田が立っている。



「貴方たち! 生徒がなぜこんなところにいるんですか?



小野先生! まだ採点が終ってないんですか? 何してるんですかあなたって人は! まぁ、なんなのこの窓ガラスは!?」



次から次へと出てくる戸田の文句に、生徒四人は早々に職員室を出る事となった。



「けどさぁ、まだわかんねぇよな」



歩きながら、国方が言った。



「何が?」



りえが首を傾げる。



廊下には早く来た生徒達がポツポツいて、物珍しそうに四人を見ている。



「あの地下室だよ。結局なんで使用禁止になってねぇんだ?」



国方の疑問に、そういえば、と三人は目を見交わせる。



「けど、それは先生が決める事じゃない。どうしてか、なんて先生じゃなきゃわかんないわよ」



ソラの言葉に、国方は「小野先生も知らないって言ってただろ? おかしいよ」と言い返す。



そういえば、サヤカもどうして地下室が生徒も出入り出来るのか、不思議に思っているようだった。



「それにさぁ。タバコはあってもコンドームが見つかるって……。



いくらなんでも地下室に女連れ込むかぁ? 資料室しか開いてないんだぜ? 一部屋しか開いてないのにカップルが鉢合わせしたらどうすんだよ」



確かに、言われて見れば疑問は次々に浮かんでくる。



四人はその場で何となく立ち止まり、「行ってみるか」という国方の言葉で、地下室へと向かうこととなった。



地下室は相変わらずだが、机や椅子は安田が教室の中に移動させていた。



いちいち机が移動していることで問題になるのはゴメンだったからだ。



今はあの教室にもきちんと鍵がかけられていて、中には誰もいない。



国方は教室の前まで来て、ふと足を止めた。



なんとなく、気配がしたのだ。



振り向くと、他の三人も同じように気配を感じ、顔をこわばらせている。



けれど、鍵がかけてあるのだ。誰も入る事は出来ない。



そう思い、国方はそっとドアに手をかけて、少し力を入れる。とたんに、扉はスッと小さな隙間程度に開いたのだ。



一瞬飛び上がり、それから「どうなってんだ」と呟く国方。



「確かに、鍵はかけましたよ?」



後ろから、安田が声をかける。



じゃぁ、何故あくのか……。



国方は、恐々と扉に近づき、音を立てないようにそっと開けた。



その瞬間、信じられない光景が飛び込んできた。



そこにいるのは、未来でも伸江でもなく、紛れもなく校長と、先ほど自分たちに説教していた戸田だったのだ。



国方の後ろから、三人もそれを除きこみ、驚きに口を塞ぐ。



静かにしていると、校長と戸田は気付いていない様子でささやき声がこちらまで聞こえてくる。



「校長、生徒がきますよ」



そう言う戸田は、いつもの硬い教師ではなく、校長を誘うただのメスと化していた。



「大丈夫だよ。静かにしてれば誰も来ない。



それに、ここで君と会って居たって、コンドームを地下室に捨てたって、生徒のせいにすれば終る話だ」



「生徒の……でも……」



話の途中途中に、戸田と校長の喘ぎが聞こえてきて、りえは吐き気を覚えた。



「心配ない。バレなきゃいいんだから」



その言葉に、国方は渦のような怒りを覚えた。



すべてを生徒の責任にして、こんなところで逢引とは。



大声で怒鳴ってやろうと思った瞬間、国方は何者かに口を塞がれた。



「お前らはさがってろ」



そこにいたのはサヤカだった。



まるで、獲物を見つけたハイエナのように微笑み、一歩教室へ踏み入れる。

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