第36話

「未来」



女の子がそう言い、伸江の方を向く。



伸江は少し驚いたようにりえを見つめた。



「この子が死んじゃったのはわかるけど……。けど、きっと向こうの世界でも未来はあると思うの。



これからもっと大きく成長するハズだから」



りえの言葉に、伸江が思わず涙を流す。



「ありがとう」



震える声で、りえに言う。



りえは、伸江に抱きついた。



そこに存在するハズがないのに、すごく暖かい。



「お母さん、私大丈夫だからね? お母さんや未来がいないのは辛いけど、大丈夫」



りえも、自然と涙がこぼれた。



未来がりえと伸江の足につかまり「未来もまぜて」と言う。



三人の影が、一瞬だけ重なる。



けれど、すぐに伸江と未来の姿はなくなった。



弾かれたような光と共に、病室に柔らかい風がフワリと舞う。



りえは、自分でも気付かないうちに次から次に涙が出てきていた。



自分の母親はただそれを伝えたいがためにここまでしたのだ。



国方達に説明したら、信じてくれるだろうか?



私に妹がいたこと。



「りえ?」



その声に、りえはハッとして振り向く。



今まで眠っていた勇気が目を覚まし、病室をキョロキョロと見回している。



「お父さん!」



りえは思わずそう叫び、勇気に抱きついた。



一日ほどしか経っていないのに、勇気の匂いが妙になつかしくて、嬉しくなる。



その瞬間、一瞬だけ感じる、潮の匂い。



「りえ、お父さん夢の中でお母さんと思い出の場所に言ったよ」



「え?」



りえは勇気から離れて顔を上げる。



「すごく綺麗な海なんだよ。お母さんと色々と話をして……」



思い出すように、勇気は天井を眺める。



「なぁ、りえ。もし、お前に妹がいたとしたらどうする?」



勇気の言葉に、りえは未来を思い出す。



そうか、お父さんは夢の中で未来に会ったのか。



「すごく、可愛がるよ」



満面の笑みをたたえて、りえはそう答えた。

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