第33話
☆☆☆
突然、目の前が光に覆われ、りえは目を細めた。
「なに!?」
一体どうしてしまったのか、理解できなくて辺りを見回す。
すると、次第に光は和らいでいき、ゆっくりと元の景色に戻った。
けれど、先ほどまで夜中だったハズの砂浜には太陽の光が差し、眩しいほどに海が輝いている。
「どういう事……」
唖然とし、りえは呟く。
周りにはあの足跡もないし、国方とソラの姿もない。
ただ、一人、りえがこの場に立ち尽くしているのだ。
その時、不意にどこからか話し声が聞こえて来る。
若い人の声だろうか?
やけに嬉しそうな声で、男と女のものらしかった。
その声は徐々に徐々に近くなり、そして、あの急な階段からその人物は姿を現した。
白いスカートにピンクのタンクトップを着た女と、ジーンズにTシャツというラフな格好の男。
男は女の手を取り、「気をつけて」と言いながら階段を下りてくる。
りえは見覚えのないその二人に首を傾げた。
砂浜に下りた二人が、まるでりえなんか見えていないように歩き、少し離れた場所で立ち止まった。
年は20前半くらいだろうか? まだ若いカップルというところか。
二人はしゃがみ込み、カップルらしい会話を始めた。
「今日見た映画おもしろかったわ」
「あぁ、僕もあれは好きだったから、どうしても君にみせたかった」
「今度は家族できましょうね」
女が何気なくいい、男は照れたように「そうだな」と笑う。
どうやら、婚約者同士らしい。
今度は家族でこよう、それは自分と男で作った家族という事だろう。
やがて女は立ち上がり、砂はまに木の棒で何かを描き始めた。
「それ、なに?」
男が首を傾げて聞く。
「すぐそこに建ってたお家。すごく素敵だったわ」
言いながら、女はお大きな家の絵を描いていく。
「将来、こんな家に住めたらいいね」
その言葉に、女は黙って頷く。
りえは一歩前へ踏み出し、その絵を覗き込むようにして見た。
一瞬、よくわからなかったが、夢の中で自分が引きずり込まれた家と似ていて、ハッと二人の顔を見つめる。
なにか、この人たちが関係あるのだ。
「私、将来あなたと結婚したら、子供は二人ほしいわ」
「二人?」
「そう。私一人っ子で寂しかったし、男の子と女の子、一人づつほしい」
「あぁ、そうだね」
まるで、どこにでもいるカップル。平凡で、将来の夢を見る幸せな……。
けれど、次の女の言葉で、りえは凍りついた。
「子供の名前は、りえがいいわ」
凍りついたまま、りえは動けない。
りえ? 偶然だろうか?
けれど……、まさかこれは……。
「伸江が考えるんだから、言い名前だね」
男が、女の手を握る。
「伸江……」
りえは呟き、女と男を交互に見つめる。
女の名前は伸江、子供の名前はりえにしたい……。
りえは立ちくらみを起こしそうになり、慌てて強く頭をふった。
男の顔をマジマジと見つめると、父親の勇気と全く同じ所にホクロがある事に気づく。
「うそだ……」
目の前にいる二人は自分の父親と母親だ。
まだ結婚する前の若い二人が目の前にいる。
りえはどうすればいいのかわからずに、ただその状況にオロオロする。
そうしているうちに背中に強い視線を感じて、りえは振り返った。
そこに立っている女の子、リエ。
「リエ……」
思わず、りえはそう言っていた。
女の子は満足そうに微笑み「そう、私がリエ」と返す。
けれど、いつものあの気味悪さはどこにもない、それところか、何故か女の子に対して愛しさまでが湧き上がってくることに気づいた。
りえは一歩一歩女の子に近づき、「あなたは私なの?」と聞く。
「違うよ」
いつもの口調で返された。
あの子と私は別人。
ホッとするが、それではこの子は一体何なのだろうか、そうして私にこれほどにまで付きまとうのか……。
「何か知っているなら、教えて」
女の子のすぐ目の前で足を止めるりえ。
すると、女の子はただ黙って真っ直ぐに指を差した。
りえが振り向くと、そこには母親の姿がある、死ぬ前のあの姿の母親だ。
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