第30話

どれくらい走っただろうか?



もう学校もすっかり見えなくなって、気づけば駅の近くにある公園までやってきていた。



三人は少し休む為に公園のベンチに腰を下ろした。



「ソラ、大丈夫?」



飛び降りた時にうずくまっていたソラに、りえは心配する。



「走れたんだから大丈夫」



そう言い笑っても、どこか辛そうに見える。



「ねぇ、もういいからソラは帰りなよ」



「嫌よ!」



とたんに、ソラは声を上げる。



「私、りえと国方さんを二人きりにはさせない」



その言葉に、思わずりえは微笑んだ。



ようやく、いつものソラに戻った気がする。



「それに、今家に戻っても危ないだろう。ヤツら、何するかわからねぇし」



国方も、本当は辛いのだろうがそれを顔に出さないでいる。



りえは公園に付けられている大きな時計に目をやり「もう二時」と呟く。いつの間にこんな時間がたってしまったのだろうか? 



全く、眠気など感じなかった。



「どうする? あの町まで車で一時間はかかる場所だ」



国方が、困ったように眉をよせる。



車で一時間、歩いたら朝方になってしまうだろう。



「電車で行くのは?」



ソラが、痛む足を押さえて言った。



「電車?」



りえが聞き返す。



いいかもしれない。



ソラは今でも足を痛めているし、色々と考える時間もほしい。



その意見に反対するものはなく、三人は駅へと急ぐ事にした。



公園から駅までは徒歩で十分程度なので、ソラも傷む足を押さえつつ、自分で歩く。



たまに国方が「おんぶしてやろうか?」と聞くが、ソラは無言のまま国方を睨みつけ、平気なふりをした。



駅につくと、さすがにもう人は少ない。



酔っ払いのサラリーマンや浮浪者たちがチラホラいるが、りえ達くらいの年頃の人は全く見られない。



こんな時間にふらついていると間違いなく補導されてしまうので、無人駅になっていたのは幸いだった。



三人は最寄の駅までの切符を買い、電車に乗った。



「電車だと、どれくらいかな」



クーラーが寒いほどにきいている電車内で、ソラが言った。



「たぶん40分くらい。駅についてから少し歩くけど、大丈夫か?」



「全然大丈夫」



ソラは笑って答えた。



三人は向かい合った席に座り、ソラは足を伸ばしている。



暗くてみえなかったが、ひねったところが痛々しく腫れていて、りえは目をそむけた。



自分のせいでこうなってしまったと思うと、申し訳なくて仕方がない。



「りえちゃんも少し休めよ」



隣に座っている国方が、りえを気遣う。



「うん。大丈夫」



りえは一つ頷き、それから考えた。



何もかも、自分に関係している事だとしたら、一体どうすればいいのか。



自分が何か知っていることが手がかりになるのだとしたら、早くそれを見つけ出したい。



けれど、りえはそんな心当たりもないし、母親そっくりな人や自分にそっくりな子供が出てくる理由もわからない。



もしかしたら、母親が何かを伝えたいのかもしれないが、それならこんな酷い事をしなくてもいいだろう。



「りえ、お母さんが死んで三年だっけ?」



ソラに聞かれ「うん」と一言返す。



「何か、言い残した事とかがあるんじゃないのかなぁ?」



その言葉に、りえは思わず「だからって、お母さんはあんな事する人じゃない」と強く言い返す。



その言葉に、しばらく沈黙が続く。



確かに、そんな事をする人ではない。



では何故サヤカや安田を別人のようにさせ、自分たちを怖がらすのか。



その理由がどうしてもわからなくて、りえは俯いてしまった。

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