第29話
「あぁ、きっと、僕を含めみんな誰かの催眠によって、変な幻覚や錯覚を見せられていたんだ。
もちろん、催眠によって見えたものが実際にそこに存在しているかのように触れたり、話したりも出来る。単純な話だよ」
「へぇ、そりゃすごいな。けど、どうしてそう言える?」
聞きながらも、三人は一歩一歩後ずさり、割られた窓へと近づいていく。
「そりゃぁ、僕や君たち以外に変なものを見たり聞いたりした人がいないからだよ」
「そうか、じゃぁお前は俺たち五人だけが誰かの手によって催眠をかけられていた、っていうワケだな?」
「そうだよ。この五人だけが、特別に見えていた事なんだ。すべては僕らにだけ起きている幻覚だ」
ニヤリと笑う安田に、国方は軽く微笑んだ。
「そうか……。けど、残念だったな。
俺たち以外にもあの地下室で変な女の声を聞いたという輩がいるんだ。だから校内でそんな噂も立ってた。違うか?」
国方の言葉に、安田の表情が一変する。
まるで鬼のようになった安田の顔に、三人はたじろく。
けれど、ここで時間をくってなんかいられない。
「またな」
国方が一言そう言うと、三人は窓へ向かって駆け出した。
一か八か……。いや、絶対に着地してみせる。
りえはそう思い、割れた窓に足をかける。
一瞬振り向くと、鬼のような安田が追いかけてくるのが見え、りえは目をつむってその場から一気に飛び降りた。
それに続き、ソラ、国方も。
着地する時に足がジンジンと痛んだが、大丈夫、生きている。
「行くぞ」
国方がすぐに立ち上がり、うずくまっているソラを抱きかかえて走り出した。
りえもそれを追う。
幸いにも門は開いていて、ここでは時間をとられずに済んだ。
とにかく、三人は走って走って走って……。
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