第28話
「砂浜……」
呟くように口に出していた。
その言葉に、国方は敏感に反応する。
「砂浜? それ、どういうこと?」
「え? 夢の中で見て……」
りえが言うと、国方は乱雑に置かれている雑誌を派手に調べ始めた。
「ちょっと国方さん?」
ソラが眉をよせる。
「昨日だ。昨日の朝刊! 俺、新聞配りながら見たんだ≪消えた町の人々!≫って記事」
必死になり、雑誌をあさる国方。
それを見て、りえも一緒に新聞を探し始めた。
「それとこれ、関係あるの?」
ソラも一緒に探しながら、国方へ聞く。
「あぁ、いきなり町の住民が消えて、その町の家は全部玄関が真っ赤だったんだと」
一瞬、りえの脳裏に夢の一部が生生しく蘇る。
砂浜を彷徨う人たち、赤い扉、女の子、引きずり込まれる私……。
りえはキツク唇をかみ締め、その映像を頭から消した。
「あった!」
突然ソラが声をあげ、りえと国方はそちらへ視線を集中させた。
「これだ」
確かに、その新聞には≪消えた町の人々!≫と言う見出しが付けられていて、その繊細が書かれていた。
三人はその記事を目で追いながら、何か重要な手がかりがないかと探す。
記事の内容は、町から消えた人々の事を中心に書かれていて、ある日突然町の人々が姿を消し、
今もその消息が分からない事。
そして、何より奇妙な事として、その人々の家のドアを何者かが真っ赤なペンキで塗りたくっていた事と、砂浜に残った無数の足跡の事が書かれている。
どれもこれも自分の見た夢と一致していて、りえは思わず両手で顔を覆った。
今にも、あの風景が目の前に現れそうで寒気を覚える。
「りえちゃん、この砂浜の事だろ?」
国方にそう聞かれ、りえはただコクリと頷いた。
「ここに行けば何か分かるかもしれない」
真剣な表情の国方に、ソラは「けど、この町は今封鎖されてるって書いてるじゃない。
それに、この学校からも出れないのよ?」とウンザリしたように新聞を放り投げる。
放り出された新聞は無残にもバラバラに散らばり、それぞれが床に舞い落ちる。
「けど、ここにいたんじゃ奴らの思うツボだ」
その言葉に、りえはサヤカを思い出す、
まるで別人のようになってしまったサヤカ。
そして、恐らく安田も……。
誰もそのことを口には出さなかったが、きっとサヤカのようになっているだろう。
「どうやって逃げるっていうのよ! 出口は全部探したわ。開くところなんか一つもなかった」
「そうだけど……」
国方はそこまで言い、黙り込む。
りえも、どうにかしてここから出られないのかと、頭をフル回転させる。
その時、ソラが何を思ったのか椅子を持ち上げて窓へと近づいていった。
一度振り返り「無駄だとは思うけどね」と一言。
次の瞬間、その椅子を思いっきり窓へ向けて叩きつけたのだ。
教室中に、ガラスの割れる音が響き渡る。
あまりにも呆気なくドアは割れ、しばらく呆然とする三人。
割れた窓から冷たい風が入り込み、ソラはようやく我に返った。
「開いたわ」
嬉しそうに振り向く。
けれど、ここは三階。飛び降りるのは危ない。
なので、三人は椅子を一つ持ち、一階へと向かう事にした。
教室から出る瞬間、三人は足を止める。
「みんな、置いてくなんて酷いじゃないか」
そう言い、息を切らしながらやってきたのは安田だった。
以前と変わらぬような安田に、三人は唖然とし、数歩後ずさりする。
「何だよ、そんな顔して」
きっと、三人とも化け物を見るような顔になっていたのだろう、安田が眉をよせて言った。
「嫌……、別に」
国方はそう言い、りえとソラを交互に見つめる。
「だ、大丈夫だったの?」
りえが平静さを装って安田へ聞く。
「あぁ、なんてことないよ。ただあの部屋に入っただけだし、何かあるワケないじゃないか。
それに、やっぱりすべては物理的に解明っできるんだよ」
自信に満ちた表情で言う安田に「え?」とソラが目を大きくした。
「みんな催眠方法って知ってる?」
「催眠方法?」
国方が聞き返し、一歩後ずさる。
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