第27話
けれど、一番遠くにいた安田が目の前の机に足をとられ、その場で転ぶ。
「安田!」
国方の叫び声と共に、教室からサヤカが現れる。
サヤカの血走った目と、その後ろにくっつくようにして出てくる女の子に、りえは言葉を失う。
足を掴まれ「うわぁぁぁぁ!」と、叫ぶ安田を容赦なく教室へ引きずり込むサヤカ。
安田を教室へ引きずり込むと、バタンッと大きな音を立てて勝手に閉まるドア。
やがて安田の悲鳴も途絶え、信じられないほどの静寂があたりを包み込む。
「行け! 早くここから逃げよう!」
国方の声に、ようやく我に返り、三人は地下室から駆け出した。
「一体どうなってるのよ!」
ソラは悲鳴に似た叫び声を上げた。
りえは先ほどから涙が止まらず、しゃくりあげている。
「くそっ! ここも開かない」
地下室から逃げたのはいいが、今度は学校から出れないのだ。どこも鍵は開いているのに、全くびくともしない。
「死ぬの? ここで私たちも死ぬ?」
半分笑みを作りながら言い、ソラはアハハッ!と声を立てて笑う。
「りえ、大丈夫か?」
国方はりえに熱いコーヒーを入れてやる。
「飲みたくない」
気が狂ったように笑い続けるソラを見て、国方は机を蹴飛ばした。
とりあえず、職員室にいれば気分が変わると思い、ここに戻ってきたのだが、この先どうすればいいのか全くわからない。
あの子供も、あの女も、一体何の為にこんなことをするのか……。
「なぁ、何か気づいた事とかないか? あの女とか子供を見て」
国方が、りえの前に座り、まるで子供に聞くようにそう言う。
りえは震える両手を自分で強く握り締め、
「安田君の絵……」
と、呟くように言った。
「絵?」
「うん。あのメモ帳に描かれた絵は私のお母さんにそっくりだった」
「お母さんに?」
眉をよせる国方。
けれど、それを聞いたとたん、ソラが動きを止めた。
「お母さん……?」
呟くように言い、ジッとりえを見つめるソラ。
「なに?」
「そうよ……。ずっと何かがひっかっかってた! 何だろうって思ってずっとずっと悩んでたのよ!」
いきなり叫び、りえの肩を痛いくらいに掴むソラ。
「おい、なんだってんだよ!」
国方がそれを引き離す。
「子供よ! 気づかない? あの子供、りえにそっくりだったんだわ! 少ししか見なかったけど、でも思った、まるで双子みたいだって」
ソラの言葉に、りえは目を見開く。
「うそ……」
「ウソじゃないわ。見て御覧なさいよ!」
ソラは、安田のノートをりえの前に突き出す。
りえはそれを受け取り、マジマジと見つめる。
「本当だ……」
そう言ったのは国方だった。
「でしょ? やっぱりあの子はリエなんだわ」
「そんな……」
りえは今にも泣き出してしまいそうになる。
「なぁ、他に何か気づいた事は?」
国方の言葉に、りえは強く首をふる。
「知らない!」
「りえ、嘘つかないでよ。私前りえから話で聞いたじゃない」
「なによ……?」
「泣いたとき、お母さんにもらってたんだってね?」
そう言い、ソラはポケットから動物の形をした飴を取り出す。
「学校でも、いつもこの飴くれるよね」
国方はソラからその飴を奪い取り、先ほどの女の子が舐めていた飴と見比べる。
「りえちゃん……」
「違う、私じゃない、私知らない! あんな子供も知らない!」
けれど、二人は徐々に自分から遠ざかる。
「でも、りえに関係することは確かよ」
あれほど仲のよかったソラが、今では別人のような目つきでりえを見ている。
違う、私じゃない。私は何もしてない……。
心の中で思いながら、りえはグルグルと頭の中を回転させる。
一瞬、脳裏によぎる赤い扉に、砂浜。
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