第26話

「安田!」



真っ先に国方が安田に駆け寄る。



けれど、安田は真っ青でどう見ても様子がおかしい。



「どうしたの?」



ソラとりえもすぐに駆け寄る。



「これ……」



カタカタと小さく震える手に握られたメモ帳。



りえはそれを受け取って、ぺんが挟まっているページを開ける。



その瞬間、三人も目がその絵が首付けになった。



「気づいたら……その絵が……」



長い髪の女。



白い肌に血走った瞳、そして真っ赤に塗られた口紅。



「おい……ヤバイんじゃねぇの?」



その絵を見て、国方は一瞬吐き気を覚える。



「先生は?」



安田が、メモをしまいながら聞く。



「地下室に行った。何かわかるかもしれないから」



そう答えた瞬間、四人の背筋にスッと冷たいものが走る。



危険だ! ようやくその事に気付いた四人はその場から地下室へとかけて行く。



もし、地下室で何か起きていたら?



図書室にいた安田の身にも何か妙なことが起きたのだ、問題の地下室にいるなら余計に何がおきてもおかしくない。



りえは背筋に汗が流れるのを感じながら、さっきの安田の絵を思い出していた。




一見して気味の悪い女の絵だが、似ていた。




本当に、目を疑うほどに自分の母親に似ていたのだ……!


☆☆☆


四人は地下室の教室を目のまえにして唖然と立ち尽くしていた。



階段の横を一杯の机や椅子が埋め尽くしていて、サヤカが「これ、邪魔だから」と教室から運び出しているのだ。



「サヤカ、どういう事?」



りえが混乱する頭で聞く。



「あぁ。別に地下室に異常はないよ。けど、机や椅子が邪魔してて中に入れないんだよ」



軽く笑いながら、サヤカは作業を続ける。



「中に?」



眉をよせる国方。



「そう、無駄なものが多いんだよ、この学校は」



吐き捨てるように言い、残り少なくなった机を運び出す。



ソラは首をかしげながらも、「でも、異常がないならよかった」と微笑む。



何よりも、サヤカになにかあるのではと不安だったのだから、その不安は外れたわけだ。



国方は一歩教室に足を踏み入れ、センサーライトが付かない事に気づいた。



「先生、電気」



と一言言う。



「うん? ついてるだろ」



サヤカは手を止めない。



確かに、蛍光灯はついている、けどもっと明るいセンサーライトはついていない。



国方はサヤカの姿を見ながら、教室から出た。



おかしい、何かがおかしい。



そう感じるのに時間はいらなかった。



「サヤカ?」



りえがサヤカに近づく、国方はそれを止めて「あいつに近づくな」と小声で言う。



「え?」



ソラが眉をよせる。



国方は一歩一歩後ずさりしながら、サヤカを見つめる。



サヤカは「これで最後」といい、椅子を教室から運び出した。階段までの廊下がほとんど埋もれるように机や椅子が置かれている。



「入る? ここは明るくていいんだよ」



そう言い、サヤカは教室の中へ入っていく。



その瞬間、ガラス窓にサヤカの影が、あの髪の長い女の影になって現れたのだ。



「サヤカじゃない……」



小さく、りえが息を飲んで言う。



「りえ、おいで?」



けれど、サヤカの声がりえを誘う。



国方はりえとソラの腕をつかみ、自分の後ろにやる。



国方と安田が目を見交わし、一・二の三で逃げるぞ、と合図する。



一……。



二の……。



三!



四人は一斉に駆け出した。

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