第25話
その姿に、サヤカはその場に倒れ込んでしまった。
足が震えて、うまく歩けない。
「お客さん」
女の子が、女のスカートを引っ張り、サヤカを指差す。
女の血走った目がサヤカを捕らえる。
サヤカはその場から動くことが出来ず、両目を見開いてその女をみつめる。
女と、女の子が同時に口の端を上げて笑い、その瞬間、サヤカは何かに足を引っ張られるように赤い扉へと引きずり込まれる。
「いやぁぁぁ!」
中に引きずり込まれる瞬間、サヤカは扉に手をかけた。
すると、ほぼ体が中へ入った状態でピタッと動きが止まり、センサーライトが反応して辺りを明るく染めた。
それでも、まだ足を掴まれているような感覚があり、サヤカはそっと自分の足へと目をやる。
そこにはしっかりと足を掴んでいる、細く白い女の手に、女の笑みがあった……。
「きゃぁぁぁぁ!!」
サヤカの叫び声だけが、虚しく響いた……。
女の絵
安田は時計を見て「もう十一時か」と呟く。
あれからずっと一人で図書館にこもっているのだが、今更ながらあの女の子を科学的に説明するのは無理だと確信していた。
けれど、それをみんなに伝えるのが悔しくてまだ図書室にいる。
「どうせ国方さんにいやみ言われるし」
職員室に戻ったときの事を想像すると、国方の態度が手に取るように見えるようだった。
ため息を吐き出し、メモ帳に視線をうつす。
一応、すべての現象において通用するような事を調べていたのだが、それも約にたちそうにない。
安田はペンを持ち、クルクルと回す。
いくら考えても、わからない。
自分自身もあの女の子に面識があるワケでもないし、小さな女の子の知り合いや記憶もない。
だとすると記憶の混乱でもないし……。
ならば、本当に幽霊?
「まさかなぁ」
そんなこと、あるハズがない。
今まで何でも勉強をして、学んだ事ですべて解決してきたのだ。
教科書や参考書に載っていること以外で何かが起こるワケがないと思っていた。
しばらく考えていた安田だが、急に睡魔に襲われ、瞼が重くなってきた。
ウツラウツラする暇もなく、座った状態で深い眠りへと引きずり込まれていく。
静まり返る図書館で、チカチカと、今にも消えてしまいそうな灯りが点滅する。
カリカリカリ……。
安田が眠っている横で、ペンが動いた。
カリカリカリカリ……。
それはメモ帳一杯に何かを描いていき、徐々に徐々に大きな音になっていく。
カリカリカリカリカリカリカリ……。
部屋中に響き渡るような音でも、安田は目を覚まさない。
そして、ペンはそれを描き終えると動きを止め、パタリと倒れた。
メモ帳に描かれた絵……。それは髪の長い女の絵だった……。
☆☆☆
職員室に残された三人はサヤカの帰りを待っていた。
国方は何度か自分で見に行こうと思ったのだが、りえとソラに止められた。
「遅いねぇ」
りえがため息と同時に言う。
サヤカが出て行ってもう一時間は来る。
「なぁ、ぜってぇおかしいよ」
国方が絶えかねたように椅子を一つ蹴飛ばす。
「けど、もし本当になにかあったならどうするのよ」
ソラの言葉に、二人は静まり返る。
実際に、この目で現実からかけ離れた事を見てきた三人だ。
どうする、といわれてもそれに立ち向かう勇気は持っていない。
「安田君も、遅いね」
りえが、気を取り直すように言う。
けど、それは返って逆効果だった。
「安田、図書室だよな? なんで帰ってこねぇんだ?」
「そりゃぁ、調べてるからでしょ?」
「でも時間かかりすぎじゃねぇ? 大体、あんな事が理屈で通るかよ」
りえとソラは目を見合わせ、お互いに嫌な予感を抱く。
「図書室、行ってみよう?」
りえの言葉に、「あぁ、そうしよう」とすぐに頷く国方。
三人は立ち上がり、職員室を出る。
けれど、少し歩いたところで安田がフラフラと歩いてくるのが見えた。
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