第23話

☆☆☆



地下室に何か謎を解く鍵があると分かっても、四人はなかなか動けずにいた。



何せ、あの影を見たばかりで、しかもその教室へ行くというのは勇気がいる。



結局、無駄に時間を過ごしながら、サヤカが仕事を終えるのを待っていた。



「あとちょっとだから」



そう言い、サヤカは残り少なくなった答案用紙に目をやる。



「うん」



りえがそう答えた瞬間、パッと職員室の電気が消えた。



一瞬、りえとソラの悲鳴が上がる。



「な、な、な、なんですか!」



安田が声をあげ、机にぶつかって転ぶ音が響く。



「落ち着けよ! ただの停電だろ?」



国方の冷静な声がして、りえはホッと息をつく。



「あ、携帯」



と、思い出したようにソラが呟き、携帯を取り出す。



これで懐中電灯の代わりになる。



けれど、携帯の灯りはつかない「あれ?  電池切れ?」ソラは眉をよせる。



今朝充電したばかりでそんなに使ってもないのに……。



「私の携帯もつかない」



と、りえ。



「こっちもです」



と安田。



「役にたたねぇなぁ」



呆れたように言う国方の声がして、パッと懐中電灯の明かりが小さい範囲だが職員室を照らし出した。



ホッと息が漏れる。



「国方、こっち照らして」



サヤカが職員室のブレーカーをいじりながら、そう言う。



「何よ、携帯持ってないくせに」



ソラが見えないと思い、国方へベェと舌を出す。



りえはそれを止めて「ダメ」と一言。



国方の家庭の事情を見ていると、携帯を持っていないのもよくわかる。



それに、国方は言っていないが、郵便配達をしているのは毎月親戚にいくらかづつ渡すためだろう。



しばらくすると、チカチカと蛍光灯が瞬きをして、あたりが明るくなる。



「よかったぁ、びっくりした」



と、微笑むソラ。



りえも微笑み、携帯をポケットにしまう。



でも、携帯がみんな電池切れなんて……、偶然? それとも……。



嫌な予感を抱えながら、グルリと職員室を見回す。



「別に停電じゃないみたいなのにな」



サヤカが首を傾げる。



次の瞬間、何か嫌なものを全員が感じ取り、その場で立ち止まる。



なにか、強烈な視線を感じる。



突き刺さるような、すごく重たくて、その視線から逃げれないような……。



りえは、ゆっくりとその視線の方へ体を巡らせていく。



そこにいたのは、机の下で体操座りをしている女の子。



赤いスカートの、女の子だ。



女の子が真っ直ぐにりえを睨みつけ、口の中でコロコロと飴を転がしている。



一瞬見えるその飴に、りえは見覚えがあり、体が動かなくなる。



女の子は軽く微笑み、ゆっくりと机の下から這い出てくる。



みんな、逃げなければとわかっているのに体が動かない。



女の子はまるでスキップをするように、りえへ近づく。



「おねぇちゃん、遊ぼ」



そう言い、グイッとりえの腕を引っ張る。



その力の強さに、りえはバランスを崩し、その場にひざをつく形になる。



目の前にある、女の子の顔。



りえは震えだす体を抑える事が出来ない。



女の子はそれを見て笑い、それから口の中にある飴を取り出し、りえの手に握らせたのだ。



「やめろ!」



その瞬間、ようやく金縛りがとけたサヤカが、女の子をりえから払いのける。



一瞬、小さく声をあげ、しりもちをつく女の子。



「出てけ!」



サヤカが怒鳴るようにそう言い、女の子を睨み付ける。



女の子は無言のままジッとサヤカを見つめ、それからスッと消えていなくなった。



女の子が消えると同時に、体が急に軽くなる。



「りえ!」



慌てて、ソラがかけてくる。



りえは震える体を抑えながら、片手を開く。



そこには女の子が舐めていた動物の形をした飴。



りえは思わずそれを投げ捨て、「いやぁ!」とソラに抱きつく。



「大丈夫、大丈夫だから」



ソラはそう言い、りえを背中をさすってやっていた……。

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