第22話

結局、話の流れで五人全員が学校に残ることとなった。



時間はもう夜の八時を回っていて、そろそろおなかもすく頃、そんな時間を見計らってかサヤカが「そこの棚に非常食があるから」と、職員室の奥にある棚を指差す。



りえはその中を確認して「これが非常食?」と眉をよせる。



そこに入っていたのは、数人分のカップラーメンやポテトチップスといった類で、非常食とは言いがたい食べ物ばかりが詰め込まれている。



「好きに食べな」



まだ採点が終らないサヤカは、視線を机に向けたままりえにそう言う。



「食べないよりマシか」



そう呟き、りえはカップラーメンを何個か取り出す。



「俺、いつもカップラーメンだから平気」



と、国方が職員室の中にあるポットでお湯を注ぐ。



「いつも?」



「うん。俺、今親戚の家にいるんだけどさ、朝と夕方新聞配りしてて、その間に皆飯くっちまうから俺の残ってねぇんだ」



「ひどい」



りえが一瞬顔を歪ませる。



けれど、国方は笑って「その方がいいんだよ、親戚の家族と一緒に飯食うより、全然うまいし」と言う。



確かに、親戚に気兼ねをしながら食べるよりも、一人でカップラーメンを食べる方がマシかもしれない。



三人はそれぞれにカップラーメンを作って食べながら、何となく、先ほどの影のことを思い出していた。



「あの影ってさぁ」



ソラが、呟くように言う。



「え?」



りえが顔をあげ、安田も手を止める。国方だけが、残りのスープを飲み干していた。



「なんだったんだろうね」



急に、不安な表情を見せるソラ。



「だ、大丈夫ですよ! 僕が解明して見せますから!」



ここぞとばかりに、安田が言うが、ソラはそんなこと聞いていない。



りえは食べ終えると、一旦息を付き、言わないでおこうと思ったことを話始めた。



「実はさ、階段で安田君がノート落としたじゃない」



「はい」



「その時、丁度あの絵が開いた状態になってって、一瞬だよ? 一瞬だからよくわからないけど、でもあの絵が笑ったように見えたんだ」



りえの言葉に、思わず全員がノートへ視線をやる。



「マジかよ」



国方が、あ~あ、というように空を仰ぎ、「本格的だなこりゃ」と続ける。



「本格的ってなによ」



思わず、りえが聞き返す。



「いいか? 女の子の絵を見て笑ったように見えたのはお前だけだぞ?



それに、女の子が夢に出てきたり、女の子が自分をリエだって言ってたり。



なにか、りえちゃんに関係あるとしか考えられねぇだろ?」



「関係って……そんな……」



りえは眉をひそめ、今までのことを思い出す。



確かに、夢に出てきたり、病院で見かけたりはした。



けれど、自分は小さな女の子なんかに元々関わりはないし、あんな気味の悪い女の子なんか今まで見たこともない。



「ちょっと、りえのせいにしないでよ」



ソラが国方を睨み付ける。



「だいたい、学校じゃ国方さんが女の子を見かけたじゃない。りえ、学校ではあの子見てないよね?」



「うん、学校じゃ見てない」



「ほら。国方さんに関係ある事だったりして」



少し冗談交じりに、ソラがそう言うと、国方は黙り込んでしまった。



「けど、ここにいる全員が見たんだよね、あの子。だったら、何かあるハズだよ」



りえが、みんなに意見を求めるようにそう言う。



「全員ねぇ……」



呟き、ソラは黙り込む。



しばらく沈黙を保っていたかと思うと、ソラはハッとしたように顔をあげ「ノート、見せて」と、安田からノートを奪い取り、あのページを開く。



りえはその絵を見たくなくて、視線をそらす。



「そうよ、赤よ」



ソラが呟く。



「みんな、あの子見たときにこの赤いスカートが一番印象的じゃなかった?」

ソラと言葉に、「そういえば」と顔を見合わせ、頷く。



「そう、普通の赤じゃなくて、血のような赤」



りえが言う。



そして、りえと国方は同時に記憶の中での赤い扉が蘇ったのだ。



「私、夢で赤い扉を見た! その扉の向こうにはあの女の子がいて……」



「あぁ、俺は地下室で見た」



りえと国方はお互いに目を見交わせ、「やっぱり地下室だ」と同時に言ったのだった。

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