第21話
☆☆☆
職員室についてからは、雰囲気が大分軽くなり、五人はようやくリラックスした様子だった。
窓から冷えた風が入り、クリーム色のカーテンを撫でる。窓の向こうは真っ暗で、校庭に生徒たちの姿はない。
サヤカは大きな掛け時計に目をやり、「お前ら、もう帰れ。時間も時間だし」と、三人に向けて言う。
「俺、大丈夫。親いねぇし」
教員の机に座り、国方が最初に返事をする。
「え?」
小さな声でりえがいい、国方の方を見る。
そういえば、サヤカが『色々事情があるんだから』と以前言っていたことを思い出す。事情とは、やはり親がいなかったことか。
なんとなく、りえはそのことに気づいていた。
りえも母親を亡くしてすぐの頃は、国方のように無駄に元気があって、何に対しても反抗的な態度だったから。
「私は、りえについてく」
と、ソラがいつもの笑顔を見せる。
「私に?」
キョトンとするりえに対して「だって、おじさん入院中だから、りえ一人じゃない」とソラ。
そう言われ、初めて「あぁそっか」と思い出し、軽く自分の頭を叩く。
お父さんが入院していることを忘れるなんて。
きっと、変な事が多いからね。無理矢理、そうやって自分を納得させるりえ。
「一人って、お前母親は?」
と、国方。
「三年前に病気で」
最後の、死んだ、という言葉は口にしなかった。
「あの、僕もここにいます」
一歩前に出て、存在感をアピールしながら安田が言った。
「えぇ?」
眉をよせ、サヤカが安田を見る。
一見、帰る、と言いそうな安田なので不意をつかれた。
「あの影に、この絵。なにか物理的に証明出来るものがあるかもしれないし」
「物理的に?」
安田以外の四人が、声を合わせる。
「はい。世の中には幽霊と呼ばれるもののほとんどが、人間の脳に関係してるんです。
もう一人の自分を見たら死ぬと言われているドッペルゲンガー現象。これも、自分の脳が引き起こすことで解明されていますし」
何度か、無意味にメガネをかけなおしながら、安田はそう言う。
「へぇ」
始めて、安田をカッコイイと思え、りえは声を上げる。
そんなりえを見て、一瞬顔をしかめる国方にソラ。
「で? 調べられるの?」
と、ソラ。
「明日の朝までに、ちゃんと証明してもらおうじゃねぇか」
と、国方。
少し、りえの好感を得たからといって、無駄に安田に対して嫉妬をあらわにする二人。
その様子を見ていたサヤカが軽く声を立てて笑い
「安田、図書館あけてやるよ」
と、わざと安田の肩を持つのであった。
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