第20話

「サヤカ!」



後ろから、大声で言われ、サヤカはハッと我に返る。



気づけば、地下室へ向かう階段が目の前にあり、危うく転げ落ちる所だった。



「大丈夫?」



慌てて、りえが階段の電気をつける。



「あぁ、ぼーっとしてた」



そう言い、ホッと息を撫で下ろす。



「りえ!」



階段の電気がついたことに気づき、ソラがすぐにかけてくる。



「こら、階段を走るな」



今、自分が転げ落ちそうになった事を棚に上げ、駆け上がってくるソラへ向けて一括するサヤカ。



「自分が落ちそうになったくせに」



小さくりえがそう言い、二人の笑い声が響く。



そんな二人を連れて、サヤカは地下室へと向かった。



階段を一歩下りるたびにタバコのにおいがきつくなり、やっぱりな。



と心の中で呟く。



「あれ、先生」



ソラにやられて顔面を赤く腫らせた国方が、白々しい顔でこっちを見ている。



サヤカはズイッと国方の目の前に顔を近づけ、「タバコ」と一言言う。



「吸ってませんよ」



ニヤリと笑い、そう言う国方。



その瞬間、口の中からタバコの匂いがして、サヤカは軽く顔をしかめる。



「吸殻は?」



「俺、ちゃんと持ってるんで」



そう言い、国方はポケットから携帯用の灰皿を見せた。



それを見た瞬間、サヤカは両目を見開き「おお、ちゃんと捨ててんだ」と国方の肩を叩く。



それを見て、りえが「え? いいの?」と驚いたように聞く。



サヤカは笑って「タバコを吸って体を壊すのは自分だろ? けど吸殻を捨てて学校が火事にでもなってみろ、学校関係者すべてに被害が被って、コイツの人生までが終る」



その言葉を聞いて、なるほど、と顔を見合わせる面々。



「あれ、安田君?」



そこで、ようやくりえが安田の存在に気づく。



「どうしてここに?」



首を傾げるりえに、安田は今までのことを説明して聞かせた。



もちろん、自分のあのノートも二人に見せる。



「絶対、おかしいよね」



ソラが誰ともなくそう言う。



「うん」



りえが、安田のノートに釘付けになる。



「で、ここにみんなが集合した……と」



サヤカがそう言い、その瞬間、気配を感じてハッと息を殺す。



みんなもその気配に気づいたのか、辺りを見回し、緊張した空気が流れる。



嫌でも、国方が言っていた噂の女のうめき声というのが心の中にひっかかる。



つぎの瞬間、教室の中からガタッという大きな物音がして、五人は飛び上がるほど驚く。



「な、な、なんだよ!」



思いがけず、安田が大声を出す。



「大丈夫、あそこは机が積み上げられてるんだ」



サヤカが、そこの教室は自分が管理している教室だと確認し、一つ息をつく。



「けど、急に机が落ちたりするかな」



りえが、震える声を必死に抑えてそう言う。



そういわれると、誰も返事は出来ない。



「え?」



一瞬、国方は自分の目を疑い、疑問符を吐き出した。



ここは地下室、電気は自分たちのいる廊下にしかついていなくて、教室にはついていない。



では、今一瞬見えた教室の中の影は……?



「どうした?」



サヤカが聞きながら、国方の見ている方へ視線を移す。



そして、また一瞬、けれどはっきり見える長い髪の女の影。



次の瞬間、五人全員、悲鳴を上げて地下室から駆け上がることとなった。



四人は地下室の階段を上がりきったところで、荒い息を整えながら、なんとなく面々の顔を見合すこととなった。



けれど、誰も、何も言わない。あの影は全員が見たはずだったし、それに対しての疑問を解決しようなんて思わない。



「と……、とにかく、職員室に行こう」



サヤカの提案に、この気味悪い場所にいるよりはずっといいと思い、全員で職員室へ向かうことになった。



職員室への階段を上がる途中、安田が持っていたノートを落とし、一旦足を止める。



りえも、なんとなくそれが気になって立ち止まり、振り返る。



そこに落ちたのは普通のノート、けれど、あの絵が丁度開いた形になっていて、一瞬、女の子に目を奪われる。



安田がしゃがみ込み、ノートを拾い上げる瞬間、女の子が口元を上げて笑い、りえは「キャッ」と小さく悲鳴を上げた。



「どうしました?」



ノートを拾い、安田が首を傾げる。



りえは目をパチクリして、気のせいだったかと思い「ううん」と首を振った。

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