第19話
☆☆☆
りえはようやく保健室から出てきたところだった。
目が覚めてからも回りの状況が上手く飲み込めず、今までのことを思い出していたのだ。
「サヤカは帰ったのかな……」
呟き、誰もいない廊下を歩く。
病院で小さな女の子がリエだと名乗り、それがキッカケでパニックになった。
しかし、それから後のことは薬のため記憶にないのだ。
気づけば何故か学校の保健室で寝ていて、ソラにメールをすると地下室にいるから、と返事がある。一体何が何だかわけが分からない。
まだ少しふらつく足取りで、りえはとりあえず職員室へと向かう。
廊下の電気が切れ掛かってチカチカと点滅する中、りえはそっと職員室のドアを開けた。
別に、ここの生徒なのだから遠慮する事などないのだが、何故だか入るのに気が引ける。
「お、目が覚めたか」
そんなりえにすぐ気づき、サヤカが机から顔を上げる。
「うん」
そう頷き、サヤカ以外の教員が帰っていることを確認して職員室へ入る。
もうこんな時間だから誰もいなくてもおかしくないが、それでも変な感じがする。
「まだふらついてるな。ここに座っとけ」
言いながら、サヤカがわざわざ教頭の椅子を引っ張ってくる。
他の教員の椅子より少しクッションが多く、座りやすい。
「なんで私学校にいるの?」
「うん? あぁ、薬のせいで覚えてないか。
病院で見かけたあの女の子、あの子をこの学校で見たって国方が言ってたらしいな? それで、国方がまだ学校に残ってたから話を聞くために戻ってきた」
再び、机にへばりついて採点を始めるサヤカ。
「本当はもっと早く仕事終わるハズだったんだけど、会議が長引いてさ。向井や国方もまだ校内にいるハズだけど」
その言葉にりえは頷き「さっき、ソラからメールがあった」と言う。
「そっか、どこにいるって?」
「地下室だって。私行きたくないなぁ」
眉をよせるりえに「地下室?」と聞き返すサヤカ。
「うん」
りえは、ソラからのメールをサヤカに見せた。
「おいおい、地下室は変な輩がいるからやめとけって言ったのに」
サヤカはため息と同時にそう言い、立ち上がる。
「どこ行くの?」
「地下室。どうせ国方も一緒だろうから、タバコ吸ってたら痛い目にあわせてやる」
パキパキ、と指を鳴らすサヤカに「私も一緒に行く」とりえ。
なんだか、誰もいない職員室に一人でいたくなくて、嫌いな地下室についていく方がマシだと思った。
サヤカはりえを連れて歩きながら「今日は泊りがけかなぁ」と宙に目をやる。
「え?」
後ろから頼りなくりえが聞いてくる。
「仕事まだまだなんだ。残業で泊りがけかも」
泣く素振りを見せて、サヤカが言う。
「学校に泊まるの?」
りえが、興味深々な表情で聞いてくる。
「まぁねぇ。けど、夜の学校なんか怪談話のネタばっかりじゃん? いい事なんかないよ」
「怪談ネタ……」
呟き、りえはチラリと近くの教室に目をやる。そこには丁度理科室があり、一瞬、身を震わせた。
「理科室なんか丁度いい肝試し場所だからなぁ」
サヤカも、理科室に目をやり、怖がるりえを見て笑う。
「でも、やっぱり怖いのは地下室だよね。他の学校で地下室とか見たことないし」
「確かに、他の学校じゃ見かけないな」
「でしょ? ねぇ、なんであの地下室があるの?」
「そりゃ、何かに使うタメだろ? 今だって一応は資料室を使ってるし」
「でも、使ってるのは資料室だけ。しかも生徒がタバコ吸ったりするじゃん、なのに何で自由に出入りできるの?」
りえにそう聞かれ、サヤカの中に始めて地下室に対しての疑問が産まれた。
「確かに、変だな」
首をかしげ、考える。
そういえば、何度も問題になっている場所なのに職員会議であの場所が話題に出たことが一度もない。
それどころか、あの場所に触れた会話を教員同士でした事だって一度もないのではないか?
そう思えば思うほど、疑問は膨れ上がる。
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