第18話

「メールですか?」



地下室に続く階段を下りながら、安田がそう聞いてきた。



「うん」



ソラは携帯画面に目をやったまま答える。



一応、眠っているりえにメールを送っておいたのだ。



「あ……、あのよければ」



安田は自分の携帯を取り出した。



「あぁ、そうね。何かあるかもしれないし」



ソラも、素直にそう言い、二人はアドレスと番号を交換することとなった。



「あ、ありがとうございますっ!」



まるで、今にも飛び跳ねんばかりの勢いで安田がソラに例を言う。



「あ、国方さん」



そんな安田をよそに、ソラは廊下に座ってタバコを吸っている国方を見つけて、かけて行く。



「おお」



少し驚いたように目を開く国方。



「なんか、やっぱりここに何かあるみたいで」



そう言い、ソラは病院で見かけた女の子の話を二人に聞かせた。



「僕も、これを」



安田は自分のノートを国方に見せる。



しばらく、沈黙が続いた後、「絶対、ここに何かがあるな」と確信したように国方は目の前の教室を見つめる。



「ここ、結局何の部屋なの?」



「今は使われてないらしいけど……。



変なんだ、俺が一人でここに入ったときは中も暗くて、薄気味悪い感じがしたけど、小野先生と入ったときはセンサーライト付きの綺麗な部屋だったんだぜ」



「小野先生と?」



眉をよせるソラに、国方は今日の放課後にあったことを話し始めた。



「……おかしいですね」



話を聞き終えて、安田が軽く身震いをする。



「けど、今ここは鍵がかかってて入れない。とにかく、小野先生が仕事終ってここに来るのを待つしかないか」



かくして、三人は地下室の廊下に座り込み、サヤカを待つこととなった。



しかし、薄気味悪い地下室で男と女が三人でいると妙に意識してしまう。



少し手が当たるだけで「あ、ごめん」と言ったり、沈黙が延々と続く。



そんな緊張を知ってか知らずか、ソラの携帯が鳴り始めた。



学校なのでバイブにしているが、その音でさえやけに大きく響く。



「りえからだ」



見ると、りえからのメールが来ている。



『なんか、目が覚めたら保健室にいるんだけどぉ、外真っ暗だし、なんなのぉ』



そのメールにソラは軽く笑い、もう真っ暗?



と眉を寄せる。



確かに、ここは地下室なので太陽の向きは分からない、けれど、そんなに時間が経ったのか……。



『今、みんなで地下室にいるから、おいで』



ソラはそう返事をし、送信しながら時計を確認する。



「うそ、もう七時?」



驚き、ソラは呟く。



「もうそんな時間ですか?」



安田も、目を見開く。



「そんなもんだろ? お前らがここに来たの六時だったし」



と、国方は相変わらずタバコをくわえている。



「そっか。じゃぁもう部活も終ってるよね」



ここに来たときに少しは聞こえていた生徒たちの声も、今は聞こえない。



たぶん、先生たちだってほとんど残ってはいないだろう。



そう思うと、地下室の雰囲気は変わらなくても、何か重いものがのしかかってくるような錯覚に襲われる。



「なんか本当に女の声が聞こえてきそうだよな」



ポツリと、国方が言う。



「女の声?」



聞き返すソラ。



「あれ? 俺言ってなかったっけ? 放課後ここにいると女のうめき声が聞こえてくるって聞いてきたんだけど」



キョトンとして国方が言う。



その瞬間、ソラの背筋に寒いものが這い上がってくる。



「何よそれ、そんなこと聞いてないわよ」



いきなり立ち上がり、怒鳴り始める。



「向井さん?」



安田がそのソラの姿に目を丸くする。



「私はただこの女の子の事を調べようと思ってきたのよ。そんな、女のうめき声だなんて」



最初は安田のノートを指差し怒鳴っていたのだが、最後の方は呟くように言う。




そんなソラを見て、国方がニヤリと口の端を上げて笑った。



「さては、ソラちゃん怖いんだな?」



確かに、怖い、と顔に書いてあるそうなものだ。



「そんなことないわよ! なにいってるの」



慌てて、ソラが視線をそらす。



「向井さん、大丈夫ですよ、僕がいますから」



ここぞとばかりに、安田が前にしゃしゃり出る。



ソラはそんな安田を無視し、スカートのポケットからタバコとライターを取り出す。



それを見た国方が「おや、そんな不味いもの吸うと成長しないよ?」といやらしい目つきでソラの体を見る。



「うるさい!」



振り返り、怒鳴ると同時にソラの拳が国方の顔面にヒットする。



「うっ……」



一言そううなり、国方はその場に倒れ込んでしまった。



「うそ、私そんなに力入れてないのに」



自分で殴っておいて、ビックリしているソラ。



安田は唖然としてソラと伸びている国方を交互に見つめたのだった。

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