第14話
放課後、荷物をまとめながらりえはソラと一緒に病院へ行く事に決まっていた。
ソラはどうしてもりえを一人にしたくないらしく、家にまで着いてくると言い出したのだ。
最初はそんな心配などいらないのに、と思っていたのだが、ソラが一緒なら勇気も安心するかもしれないと思い、一緒に連れて行くことにした。
「りえのお父さんってサラリーマンだよねぇ?」
「そうだよ?」
「じゃぁ挨拶とか普通でいいかなぁ」
まるで、恋人の父親に会う彼氏のようにドキドキしながらソラが聞く。
「そんなの考えなくてもいいわよ」
と、りえは苦笑する。
「ダメよ、始めの印象が肝心なんだから!」
なにやらソラは俄然やる気を出している。
そんな時……、「田村、いる?」と声をかけられた。
りえが声のした方を見ると、そこには真剣な表情のサヤカ。
一瞬、ソラがムスッとしたのが見えたが、サヤカの表情はただ事ではなさそうなのですぐに「どうしたの?」と教室を出る。
「さっき、家に病院から電話があったんだって」
「病院から?」
りえは嫌な予感に眉をよせる。
「おじさん、まだ意識が戻らないらしくて、すぐに個室に移動したらしい」
人目を気にしながら、サヤカが小声で言う。
「個室に?」
驚いて、つい声が大きくなってしまい、慌てて周囲を見回す。
「私、車出すからすぐに行こう」
「わかった」
すぐに教室に戻って荷物を取ってくるりえ。
「待って、私も行く」
廊下でソラに腕をつかまれ、りえは立ち止まる。
けれど、ソラもただ事ではないとわかっているのか真剣だ。
「わかった。ソラも一緒にいいでしょ?」
サヤカは二人を交互に見つめて「もちろん」と微笑んだ。
☆☆☆
病室は、個室とあってさすがに静かだった。
真っ白なベッドと真っ白なシーツに包まれた勇気は、昨日とは打って変わって様々なチューブをつけられ、大きな機械が周りに並ぶ。
どうして一日でこんなことになったのか、だたの交通事故で軽症ではなかったのか。
様々な思いが頭に駆け巡るが、上手く口に出すことが出来ず、結局サヤカが医者に理由を聞いてくれることになった。
けれど、医者もただ首を傾げて「確かに軽症で内臓や脳に障害は見られませんでした。
けれど、ただ目覚めないんです。昨日手術をしてからずっと」と言うばかり。
「それって、医療ミスじゃないんですか?」
キツイ口調でサヤカが医者に問い詰める。
「まさか! ただ傷口を縫合するだけですよ? ミスなんてあり得ません、もうとっくの前に麻酔も切れてます」
と、逆に医者を怒らせる結果となってしまった。
りえはぼんやりとベッドの隣に座り、勇気の顔を眺めていた。
本当に、ただ眠っているだけのように穏やかに息をしていて、揺さ振ればすぐに目を覚ましそうだった。
けれど……、りえは勇気の体を揺さ振ることさえ出来なかった。
勇気の顔が、あまりにも優しく微笑んでいて、まるで眠っていることが天国かのように見える。
起きなくなったのは医療ミスでも事故のせいでもなく、勇気が自分から目覚めないようにしているように。
「りえ……」
どう声をかければいいのかわからず、ソラがりえの肩を叩く。
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