第13話

ゆっくり、その手に力を入れる。



「あれ?」



もう一度、今度はしっかり力を入れる。



しかし、そのドアはびくともしないのだ。



「なんでだ?」



確かにあの時は開いていたのに……。



誰かが閉めた? 



何度か、ガタガタと扉を開けようとする国方。



その時、「なにしてんの?」と言う聞きなれた声が後ろから聞こえ、チカチカっと瞬きをして電気がつく。



「あ……」



見れば、階段辺りにサヤカが立っている。



「またあんた? まだ授業中なのに今度はなにやってんの?」



呆れたようにそう言い、片手に持ったカギをカチャカチャ言わせながらやってくる。



「いえ、大したことじゃないです」



言いながら、作った笑みを見せる。



「その笑顔にはだまされないからね。あ、まさかタバコ?」



サヤカが眉を寄せ、国方の口元に鼻を持っていく。



「違いますよ」



幸いにも、今日はタバコを一本しか吸っていないしその後にアメを食べた。



「甘い匂いで隠したな?」



鋭く見破り、そう言うサヤカに国方は「さぁねぇ」と首を傾げて見せた。



「全く、別に吸うなとはいわないけど、学校じゃ吸うな。



いちいちバレて怒られるのも面倒だろ?」



言いながら、サヤカは国方をどかせてドアに近づく。



「あれ、その教室何かあるんっすか?」



「あるから開けてるの。そろそろ授業終るから教室に戻って掃除くらいしな」



「あ、俺今日は調子悪くて六時間目で早退ですから。で、この教室って何に使われてるんです? 前ここで女の子見たんっすけど」



「女の子? あんた目がおかしいんじゃない?」



サヤカが軽く笑ってそう言い、カギを開けた。



「でも、この前……」



「この教室はいつもカギかけてんの。私しか入らないから女の子なんか入れるワケないじゃない」



国方の言葉を遮り、サヤカが言った。



サヤカがドアを開けると、すぐに教室の中の電気が付く。



「うわっ」



一瞬、国方が後ずさりをした。



「ここはセンサーライトなんだよ。普通の教室として使われなくなってから色々と便利なもん取り付けたらしいよ」



国方の驚きように笑いをかみ殺し、サヤカが言う。



「へぇ」



国方も、必死でいつもの笑みに戻す。



教室の中はいらなくなった机や椅子が無造作に置かれ、昔はあっただろう黒板も、その姿を消していた。



けれど、なにより驚いたのは真っ白な壁にホコリ一つない綺麗な教室だった。



「綺麗だろ? 空気清浄機も付けられてるんだよ」



たしかに、耳を澄ませば機械の音が微かに聞こえてくる。



「でも、なんでこんな部屋に?」



国方はグルリと教室の中を見て回りながら、サヤカに聞く。



「あぁ、一時期ここが宿直室になってたんだ。地下室ってダケで気味悪いから、先生方が自腹で色々と買い揃えたんだと」



「なるほど……。けど、今はあんなボロイ部屋が宿直室っすよねぇ」



「そう。やっぱり先生も人間だから、こんないい部屋にいたら下心も出てくるんだよ」



サヤカの言葉にしばらく考え、「ラブホ代わりっすか?」とニヤニヤしながら言った。



「まぁ、簡単に言うとね。生徒に何だかんだ言う前に先生方もここをいいように利用するから、それで私が譲り受けたんだよ」



「ふぅん」



頷きつつも、昨日自分が見た教室とは全く別の姿になっているのに眉をよせる。



サヤカはひとつ椅子を出し、それに腰を下ろす。



「それで、先生はこの教室を何に使ってるんです?」



「何にも。ただカギを管理して掃除しに来るだけ」



その言葉に「もったいない」と思わず呟く国方。



けれど、これだけ綺麗な教室を自分の自由に使えと言われれば、それはそれで困るかもしれない。



「さぁ、病人ならもう帰れ。どうせホームルームにも出ないんだろ?」



「やだよ、俺帰らねぇ」



「あんたねぇ」



呆れた表情をするサヤカに対して国方はニヤリと微笑み、「先生、ここに幽霊が出るって知ってる?」と聞いたのだった。

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