第12話
安田のノートを覗き込み、わざと大きな声でそう言う。
「うるさいよ」
安田がクールにそう返すが、「マジ下手、見てみろよ」と皆に声をかけて行く。
数人に覗き込まれながらも、安田は黙々とノートにスケッチしていった。
しばらくして、「……何描いてんだコイツ」と一人が眉をよせる。
「さぁ……」
「おい、大丈夫かよ」
肩を強くつかまれ、安田は我に返る。
「え?」
目をパチクリしてペンを止めた。
ノートを見ると両ページに大きく女の子の絵がリアルに描かれていて、一瞬息を飲む。
「なにこれ、お前の妹?」
眉を寄せてそう聞かれても、返す言葉がない。
こんな絵、描こうと思って描いたのではない。
それにまるで写真をそのまま絵にしたような女の子なのだ、絵心、なんて言葉さえ知らない安田にかけるハズもない。
「ハハハ、でもお前うまいじゃん」
バシバシ背中を叩いてくるクラスメイト。
けれど、安田は頭の中にあるモヤのようなものが気になり、再びペンを取った。
頭に浮かぶがままを、手が動くがままをそのままノートに描く。
リアルに描かれていたその絵は更にリアルさを増していき、まるで生きている人間のように微笑む。
「まだだ……」
安田はそう呟き、持っているペンで色を足していく。
「うおぉすげぇ」
色をつけたその絵はまさに生き写しで、いつしか安田の周りにはほとんどの生徒達が集まっていた。
「違う……」
しかし、安田は目の前のノートしか見ずに、色を加える。
違う、違う、違う……! この色じゃない。こんな赤色じゃない。
何度も何度も赤色を塗りなおす。けれど、一本のペンでは出ない色なのか、次々に色を混ぜていく。
もっと濃く、もっと深く、もっともっと、そうまるで人間の血のような赤……!
安田は両目を真っ赤に染め、口の端を上げ、何かに取り付かれたように赤色だけを塗りたくる。
汗が流れようが、周りがうるさかろうが、今の安田には何一つ関係なかった。
「これだ!」
思い通りの色が出来て、そう叫び、ペンを置く。
シンと静まり返る教室内。
ノートには赤色だけが強調された女の子の絵。
「……うまいよ」
引きつった笑みを見せて、誰かが一言そう言った。
みんな小声で「あいつおかしいよ」などと言いながら自分たちの席へと戻っていく。
けれど、安田は荒い息を吐きながらジッとその絵を見ていた。
真っ赤に塗られたスカート。三つ網の女の子。
誰が、何の為にこの絵を自分に描かせたのか。
準備室での、あの会話を思い出さずにはいられなかった。
☆☆☆
「オバケが出るって言われたら気になるんだよなぁ」
そう呟き、国方は懐中電灯を片手に地下室への階段をゆっくりと下りる。
別に懐中電灯でなくても電気をつければ十分明るいのだが、気分を盛り上げるためにワザワザ宿直室から借りてきたのだ。
と、言っても誰もいなかったのでそのまま持ってきたので盗んできた、という方が正しいか……。
「まだ放課後じゃないけど……、似たようなもんか」
六時間目が終る十分前。
国方は弘に聞いたあの噂が気になって仕方がなく、六時間目が終る三十分前に具合が悪いからと言って教室を抜け出したのだ。
あと三十分が待てないあたりが、国方らしい。
「うわ、すげぇ雰囲気」
地下室に下りたとたん、朝とは違う、寒気が来る様な雰囲気が体中を支配する。
「これ、マジでやばかったりして」
そう呟き、自分が見た女の子を思い出す。
あのときはそんなに変だとは思わなかったが、普通に考えるとここに女の子がいる時点でおかしい。
まさか、あれも幽霊?
確かに、幽霊であっても何もおかしくはない。けれど、りえだって病院で見かけたと言っていたのだ。
どこの病院かは知らないがそんなに遠くではないだろう。
だとすると、その病院とこの学校になにか関係がある女の子で、行ったり来たりしているとか……。
そんなことで自分を納得させようとする。
少し歩いて、国方は立ち止まった。自分があの子を見た二番目の教室。
国方は一つ唾を飲み込み、そのドアに手をかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます