第10話

「なに……してるの?」



りえとソラが同時に声を合わせる。



「いや……、別に」



ハハハハハ、と乾いた笑いを見せて、国方と安田は言った。


☆☆☆


結局準備室には四人がいた。




「別に同性愛がいけないとかじゃなくて」

「そうそう、それは個人のことですし」


りえとソラのキスシーンを見てしまって、男二人は必死にそう言っていた。



「別に、キスしたの見られてもどうってことないわよ」



と、ソラが言う。



「そ、そうですよね」



慌てて笑みを返す安田。



「でも、盗み見なんてねぇ」



りえは眉をよせたまま国方を見ている。



「それより! 昨日面白いもの地下室で見つけたんだけど」



話題を変えるように、突然国方が言い出した。



「面白いもの?」



ソラが聞き返す。



「あぁ、地下室って教室がいくらかあるだろ? その中の一つが開いてたんだ」



「開いてたって、資料室じゃないの?」



りえが昨日のことを思い出す。



たしか、自分が来る前に国方があの部屋に入っていた。



「資料室はいつだって開いてるわよ、私も何度かタバコ吸いに入ったし」



ソラが横からそう言い、りえと安田は目を見開く。まさか、タバコを吸っているとは知らなかった。



「あぁ、資料室じゃなくて、地下に下りて二番目の左側の教室。あそこも鍵が開いてたんだ」



「嘘、資料室以外は全部鍵かかってるハズよ」



と、りえが言う。



「いや、間違いなく開いてた。それでちょっとその教室に入ってみたんだけどさ、なんか変な女の子がいたんだよ」



そう言う国方の言葉に、りえ以外が「えぇ~」と眉をよせる。



「女の子?」



りえが聞き返す。



「あぁ、赤いスカートにフリ……」



「フリルのついたシャツ」



最後の言葉をりえが繋ぐ。



「え……。何でわかったの?」



国方が驚いたように見つめる。



「昨日、病院で見かけたの。それに夢の中にも出てきた」



「嘘だろ?」



「本当よ! 三つ網をした小さな女の子」



その言葉に、面々は顔を見合わせる。



「やだなぁ。赤いスカートに三つ網の女の子くらい、その辺に沢山いるわよ」



気を取り直すように、ソラは明るくそう言った。



「そうですよ! 考えすぎですよ」



安田も、ホッとしたようにその場を和ませる。



しかし、国方は続けた。



「その子、教室の奥にあった部屋に入っていったんだ。たぶん、この準備室と同じようなもんだと思うけど……、その扉、真っ赤だった」



まるで、金縛りに合っているように皆動けなかった。



特にりえは昨日のリアルな夢が今、ここに現実として存在しているように感じ、全身が冷たくなる。



シンとなる部屋の中、誰かが廊下を歩いてくる足音が聞こえた。



「誰……?」



ソラが小さく声を上げる。



しかし、それに返事をする者はなく、ただ全員の目が扉へ注がれる。



コツコツコツコツ……、徐々に徐々に近づいてくる足音。



何の迷いもなく、まっすぐにこの準備室へ向かってくる。



コツコツコツコツ。



コツコツコツ。



扉の前で足音が止まる。



次の瞬間、大きく扉が開けられ、四人は一斉に悲鳴を上げた。



「『キャァ!』じゃないだろ! なにやってんだ、授業始まってるぞ!」



そこには鬼のような顔をしたサヤカが立っていて、四人は現実の怖さに引き戻されたのだった。

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