第7話
「何よ。そんなのじゃないわよ」
「あら、そう? じゃぁ国方が女子生徒に囲まれてても平気なんだ?」
「平気。だって、別に気にならないもん」
「ふぅん? 何せあいつプレイボーイだからなぁ、何人手玉に取ってるかなぁ」
言いながら、わざと指折り人数を数え出す。
りえはそれを見ながら「本当に違うの! ただ、三年で転校してくるって珍しいし……」
「あぁ。そりゃ仕方ないよ、色々事情があるんだから」
「事情……」
「あんたに母親がいないのと似たようなもんだね」
「ふぅん」
なんとなく、りえは頷いてそれから「お風呂行く!」と、立ち上がる。
さやかは風呂場へ向かうりえを見ながら「若いっていいねぇ」と呟いたのだった……。
結局、なんだかんだで二人が眠りに着いたのはすでに午前二時を回ってからだった。
「明日遅刻するぅ」
と言いながらも、さやかは久しぶりにビールを口にしていた。
その日、疲れていたためか、りえは奇妙は夢を見た。
真っ青な空が続く中、りえは一人で砂浜に立っている。
どこにでもあるような砂浜だが、何故だか懐かしい雰囲気が漂っていて、潮風に目を細める。
青い海と青い空が一体化する水平線にはイッセキの船が汽笛を鳴らしながら煙を吐き出す。
すばらしく綺麗な光景に、胸の高鳴りを覚えるりえ。
その時、スカートを引っ張る感覚に、視線を移した。
そこには、赤いスカートにフリルのついたシャツを着た女の子がいて、りえのスカートを掴んでいる。
病院で見かけたあの子だとわかるのに、時間はいらなかった。
それを合図にしたかのように、今まで誰もいあなかった砂浜に人の影が現れはじめる。
一人、二人、三人、四人……。
その人数は急激に増えて、あっという間に砂浜を埋め尽くした。
明るかった空もいつの間にか黒く重たい雲に覆われ、汽笛を鳴らしていた船の姿もない。
「あの……」
その中の一人に声をかけるが、誰一人として反応しない。
それ所か、まるでみんな生気を失ったようにただゆらゆらと砂浜を歩き回るだけなのだ。
「誰も口きいてくれないね」
その時、女の子が始めて口を開いた。
幼い声で、嬉しそうにキャッキャッとはしゃぎながら。
りえは、思わず女の子の手を振り払った。
女の子が、ジッとりえを見つめる。
りえは、その場にいてもたってもいられなくなり、砂浜から道路のある方へと駆け出した。
少し行けば、すぐに民家が現れ、りえはホッと胸を撫で下ろす。
けれど、歩いても歩いても、どの家にも灯りがともっていないのだ。
誰もいないのかと不安を覚えながらも、りえは一つの家のベルを鳴らす。
ジリリリ。
けたたましいほどのベルの音が、暗闇に響き渡る。
しかし、家の中から誰かが出てくることはなかった。
次の家も、次の家も。
ベルだけが空しく響くだけ。
それに、何件かまわっているとりえは妙なことに気がついた。
家のドアの色が全部一緒の赤なのだ。
それも、明るい赤ではなく、どす黒い血のような赤……。
まるで、あの女の子のスカートみたいだ。
そんなことを思いながら、次の家のベルを鳴らす。
すると、「はぁい」と中から返事が聞こえたのだ。
りえは思わず笑みを零す。
人がいた、それがこんなにホッとして嬉しいことだと始めて気づいた。
「どなた?」
そう言いながら、ドアが開く。
「あの……っ!」
そう言いかけて、りえは息を飲んだ。
「あ、おねぇちゃん。来てくれたの?」
あの女の子が、嬉しそうに微笑んでいる。
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