第6話

☆☆☆


病院に着く頃には大雨に変わっていた。



りえはまだ意識の戻らない勇気を見て、痛々しい気持ちになる。



それほど酷い傷はなくて手術もすぐに終ったらしいが、麻酔で明日の朝までは目覚めないだろうと言われた。



「今日、家に泊まってく?」



サヤカが、勇気の荷物を確認して戸棚にしまいながらりえに聞く。



「でも……」



不安そうなりえ。



「大丈夫だよ、たいしたケガじゃないって言ってるし。少し入院すればきっとよくなるよ」



そう言いながら、りえの頭を撫でる。



いくらしっかりしているとはいえ、まだ中学二年生なのだ。ショックは隠しきれない。



「りえがそんなんでどうするよ。おじさんだってそんな顔のあんた見たくないだろ」



サヤカが、ポンッと背中を押す。



「うん……。明日ここに来てから学校に行く」



「よし! じゃぁ今日はうちに泊まりな。うちの親にも事情伝えといたから」



「ありがと」



りえは小さく頷いて、サヤカと共に病室を出た。



出た瞬間、何か肌寒いものが体中を駆け巡り、りえは身震いをした。



「なに、あの子」



それと同時に、サヤカが前方に立っている女の子に気づいて首をかしげた。



赤いスカートと白いフリルのついたシャツを着た女の子が、ジッとこちらを見つめている。



りえは、何故だかその子に目を奪われて、体が動かなくなる。



「こんな時間に一人? お母さんは?」



子供好きなサヤカが、女の子に近づく。



すると、女の子は背中を向き、駆け出した。



「あっ!」



サヤカが追いかけようとすると、「やめて!」と、後ろからりえの叫び声が聞こえてきた。



「え?」



驚いて振り向く。



その瞬間、真っ青になって脂汗をかいているりえに気づく。



「りえ? どうした?」



慌ててりえの肩を揺さ振る。



りえはかけて行く女の子から目を離せず、体中の生気を吸い取られているように力を失っていく。



けれど、女の子が自分の視界から消えたとたん、寒気がなくなり、力が戻るのがわかった。



「りえ?」



不安そうに自分の顔を除きこむサヤカに始めて気づき、「ごめん、大丈夫」と笑みを作った。


☆☆☆


りえがさやかの家に行くのは三年ぶりで、久しぶりに再開したおじさんやおばさんは相変わらずさやか顔負けに元気だった。



「あらぁ、ひさしぶりねぇ!」



そんな挨拶から始まって、延々と何時間も世間話は続く。



勇気が交通事故、という不運なことで再開したのに関わらず、笑いが絶えない。



りえはそんな家族の中にいながら、私にも姉妹くらいいれば多少は家の中が明るくなったのかな? と考える。



「りえ、あんた私と一緒の部屋でいいでしょ?」



先に風呂に入ったさやかが、そう言う。



「うん。あ、ねぇさっき三年生の集合写真撮ったって言ってたでしょ?」



「あぁ、今日撮ったけど?」



さやかは数学の教師だが、三年A組の担任でもある。



「あの……、国方迅って知ってる?」



伏し目がちにそう聞くりえに「国方? さぁ~いたかなぁ?」と首を傾げてみせる。



「え? いないの?」



驚いて目を見開くりえ。



そんなりえを見て笑いながら「いるよ、A組じゃん」と言うさやか。



「じゃぁ最初からいるって言ってよ」



頬を膨らませながら、りえは仏頂面になる。



「ごめんごめん。あの国方ってのはクラスの女子からも人気だから、まさかりえまで国方を気に入ってるとはねぇ」

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