第3話

午前中の授業が終わり、ソラと購買にパンを買いに行っているとき、ふと視線を感じてりえは周囲を見回した。



購買には生徒達が群がっていて、その中から視線を感じることは確かだった。



けれど、それが一体どこからの視線なのか、りえはわからなかった。



「屋上で食べる?」



ふとおもいついたようにソラがそう言った。



「いいねぇ」



普段は閉められている屋上への扉だが、今日は午後から三年生がクラス写真を撮るので開け放しになっている。



このときを見計らって屋上で昼食を取る生徒は少なくない。



「やっぱ気持ちいいねぇ」



青空が広がる中、錆びれたベンチに座る二人。



他にも生徒はいるものの、大抵がホコリくさい教室を嫌う女子生徒ばかり。



「ここでサンドイッチ食べるとおいしいよね」



ソラも、気持ちよさそうにそう言う。



そんな中、一人の男子生徒が後ろから声をかけてきた。



振り向くと、この学校じゃ有名なガリベン君が真っ赤な顔をして立っている。



「なに……?」



あからさまに嫌な顔をしながら、ソラが聞く。



彼は半年前からあるソラのファンクラブの会長だと、りえは聞かされていた。



「あ、あの……ですね。実は今日委員会がありまして……、そ、それでですね! ぜひとも向井さんにご出席願きたく思いまして」



しどろもどろ言うその姿がおかしくて、りえは笑みをかみ殺す。



「何で委員会なんかしなきゃなんないの? 私関係ないじゃん」



そう言い、サンドイッチを一口かじる。



「ですけどねっ! あ、あ、あの向井さんが参加することで、色々と周りのやつらもやる気を出すっていいますか……。その、向井さんがいれば早く仕事が片付くっていいますか」



言っていることの意味がわからない。



「だから? 私帰りはりえと一緒なんだよねぇ。もし委員会に出てほしいなら、それなりに何かあるんでしょうね?」



「え……、それなりに、といいますと?」



ガリベン君が、汗でずれたメガネをかけ直す。



「お金! 当たり前でしょ? 払えないなら二度と私の前に姿を現さないで? あんたってなんか近くにいるだけでキモイんだよね」



追い払うためとはいえ、スラリとお金を出せと言ってしまうソラに、りえは目を丸くする。



「え……あの……」



ガリベン君は驚いたのか、何を言っていいのかわからずに額に更に汗をかいている。



「じゃ、ばいばい」



強制的にソラに別れを切り出され、「あ……、はい」と、俯いて回れ右をするガリベン君。



りえはその後姿を見ながら「いいの?」とソラに聞く。



さすがに、何だか可愛そうに見える。



「いいの。邪魔だもん」



最後の一口を口に入れ、「ごちそうさま」と手を合わせるソラを見て、あらためてソラに嫌われるとこわい。と感じたのだった。



しかし、それから数分後のことだった。



また、一人の男が二人のもとへやってきた。



「また、ファンクラブ?」



見覚えのないその顔に、りえが小声で聞く。



「さぁ? 私も知らない」



と、首を傾げるソラ。



けれど、その男子生徒は少し色素の薄い肌に、サラサラの髪の毛がよく似合い、薄いブルーの瞳が美少年ぶりを更に引き立たせていた。



「あの……どちらさま?」



恐る恐る、りえがそう聞く。



「あれ、覚えてない?」



首をかしげ、そう聞いてくる男子生徒。



りえはその声に「あっ!」と声を上げた。



今朝、資料室で会ったあの声と同じだ!



「思い出した? 二年C組の田村りえさん」



「えぇ……」



まさか、こんな美少年だったとは思ってもいなかったりえは、心臓がバクバクと高鳴るのを覚えた。



「なになに? 知り合い?」



興味津々に聞いてくるソラに、「まぁ……」と中途半端に返事を返す。



すると、「あ、なにそれ。俺らキスした仲じゃん」と、その男、国方が頬を膨らませるようにして言った。



「キスゥ!?」



ソラが大声を出す。

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