第28話 ランド過去編

 「あれは…俺が5歳くらいの時だったかな…兄妹きょうだい達だけで、クルシス国の城に招待されて王様の所に謁見えっけんしに行ったんだよ―――」

 

 

 

――――――――


 クルシス国の城は、ドルク帝国からはさほど遠くない場所に位置している。

 とは言え、そこに行くまでには警備や安全もない道を行く訳でもあるので、馬車やスを使う者も少なくは無いし、徒歩で行くのであればそれなりの覚悟を決めて行かなくてはいけない。

 そんな中、城に向かう道を歩いていた1つの団体パーティがいた。

 その団体は他とは違い、大人は居らず子供だけの団体だ。小さな子も居れば、それなりに年上っぽそうな少年少女も居る。

 城の近くとは言え、山賊や魔物等様々な危険な存在も、狙いやすい相手なのだが、例えそれが無防備に歩いて居たとしても誰も手を出してこなかった。


 それもそのはず、その子供だけの団体は、かの『プリム』壊滅時に、ドルム帝国に逃げのびた8人の子供達。

 長兄ちょうけい赤龍せきりゅうは鋭い目付きで周りをギラギラと警戒している。長女、水無月みなづきは、のんびり歩いているだけだ。その2人に先導され、本を読みながら歩く2人の子供次男、黒龍こくりゅう、三女、弥生やよい、不気味な姿で人を寄せ付けない姿の三男、如月きさらぎ、その頃から身体が大きく育っていた四男、白龍はくりゅう

 殿しんがりには、両手を1番小さな子供達と手を繋ぎ歩く次女、皐月さつき。将来は美少年美少女になるだろうと言われている四女、睦月むつき、末っ子、ランドである。

 今では学校という概念からみんな一律で年齢を揃えられているが、三男まではもうすぐ成人を迎えられそうな年齢であり、水無月にに関しては、『プリム』が壊滅する前に、ここドルム帝国に働きに出てきていた。

 この子供達はそれぞれ『能力ちから』を備えられており――プリム出身者は高確率で能力が備わっている――、能力を持ったもの達は色んな場所で重宝ちょうほうされている。


 「赤龍兄さん、もうすぐ城には着きそうだけど、西方800mくらいに不穏なパーティが待ち構えてるよ」


 本を読みながら、黒龍は目を向けずにそれだけを伝える。


 「まぁ、それだけ離れてれば襲ってくることも無いだろう。無視して先に進むぞ」


 赤龍は言われた方をギラギラと睨みつける。大体は、近くまで来て子供達の顔を見るなりそのまま素通りしていく様な者ばかりだ。


 「にしても、黒龍兄さんの『天竜眼てんりゅうがん』は便利だよなぁ…本を読みながらなのに、遠くの場所も把握出来る上に、竜化しなくても使えるって良いよな」


 白龍がぼやく。黒龍の能力『天竜眼』は、遠くの場所を空から見る様にハッキリと見る事が出来る。後援支援的な能力だが、『竜化』する事により攻撃的な力を得る事が出来る。

 そもそもだが、赤龍・黒龍・白龍の3人は龍の一族の末裔であり、古代から伝わりし龍の血が流れている。しかしながら、その血もプリム壊滅時に途絶えてしまい、今やこの3人しか末裔は居なくなってしまっていた。


 「しっかしさ、なんでまた急にウチらの末っ子が見たいとかいいだしたんだろうな王様ってのは」


 自分の手を握りボーっとマイペースに歩く弟の姿を皐月はチラリと見た。

 あの時、自分らを守ってドルム帝国まで導いてくれたあの女性は、間違いなく昔から見ていたプリム城の王妃様だ。そんな彼女は、このランドを産んだ直後に死んでしまった。

 間違いなくランドは、王様の最強チートと言われていた能力を継承しているだろう。


 (まさか、能力を目当てに城に呼んだのか?)


 皐月は首を横に振った。

 まさか、ランドの能力を見た所でまだ子供の彼には何も出来ないだろう。

 それに、逃げてきたウチらを引き取ってくれた家族達に、城から支援金を出してくれた王様だ。悪い事をしようとして呼んだわけじゃないだろう。きっと、ウチらの成長を見たいが為に呼んだのだろう。


 しばらく歩き城が見えてきた。一国の城というのに、あまり見栄えは良くない様にも見えた。

 城の前には門番が立っており、門番達は顔を見るなり直ぐに通してくれた。

 門が開かれ広場を通り扉が開かれる。

 城に1歩踏み入れると、外観とは違い豪華絢爛ごうかけんらんな内装と、綺麗な服装の執事やらメイドなりがマイペースに動いている。

 そして天まで届きそうな長くて大きな階段の先に、またもや大きな扉。しかしその扉は、細かな彩色がはめ込まれた豪華な扉であった。

 そして、その扉の前にも門番が立っており、その門番もコチラの顔を見ると、扉をノックしてから開く。


 そしてその中は、豪華と言えば豪華であり、きらびやかな内装で、長い道に敷かれた絨毯の奥に、王冠を被った老人おうさまと、その両隣に偉そうなヒゲを生やし、卑しい笑顔を見せるだいじんが2人、その絨毯の敷かれた道の両脇には、傷1つない甲冑を身にまとった騎士達と、その中で紋章を付けた騎士団長が立っていた。


 兄妹達は、その絨毯の道を歩き、王様の前まで来ると膝をつき頭を下げた。

 まだ、よく分かっていない睦月とランドは立ったまま辺りを見回していた。


 「ほっほっほっ。遠い所からわざわざ来てくれて御苦労だったな」


 王様は、顎から伸びている長い髭をさすりながら兄妹達に視線を落とした。


 「いえ!とんでもございません。勿体ないお言葉をありがとうございます」


 赤龍が顔を上げ王様の目を見ながら話し、また頭を下げた。


 「良きかな良きかな。それで早速本題に入るのだが、そっちの男の子が、あの時の子じゃな」


 王様が視線をランドに移した。

 未だによく分かっていないランドは、少し眠いのか目がふわふわとしている。


 「それにしても、惜しい男を失ったものだ…。彼の者は、私立武装学園の同級生であってな。私は普通科、あやつは武術科にりながら、普通科とも仲良くしてな」


 王様が深くため息をついた。

 きっと武術科でありながら、ランドの父親とは親友かなにかだったのだろう。突然の訃報に驚かれたであろう。


 「いやしかし、本当にそっくりじゃな。この子が大きくなったら父親みたく強くなるだろうに」


 「はいっ!僕たちクルシス国に助けられた恩義を感じています!コイツも一流の兵士として育て上げ、この国に恩義を報いれるようにして行きます!」


 赤龍がまた顔をあげ心意気を言い放つ。その瞳の中には強い信念が映り込んでいる。


 王様はうんうんと頷き、1拍間を空けそして騎士団長に何かを指示するような手の動きを見せた。

 騎士団長は深く頭を下げると、子供達に近づいた。


 「さぁ、子等こらよ。我が城のおもてなしをしようでは無いか。こちらへ」


 子供達は立ち上がり騎士団長が促す方へと歩み寄る。すると王様が口を開いた。


 「そうじゃ。ランドとやらは、こちらへ渡してくれぬか?」


 王様の目つきが先程まで優しそうだったのだが、一瞬だけだが品物を検品するかのような鋭い目つきに変わったのを皐月は見逃さなかった。


 「王様。失礼ですが、ランドはまだ幼い故に、物事を理解する事が遅い子でして、この睦月以外の誰かも一緒に同行してもよろしいでしょうか?」


 皐月は握っていたランドの手をギュッと握り返した。何故だかは分からないが、何か嫌な感じがしたのだ。


 「ほっほ、別に取って食おうだなんて思っておらんわ。ちょっとその子に用があるだけなんじゃが」


 クルシス国の王様が、少年愛好家とは聞いた事が無い。しかし、渡してはいけないようなそんな感じがヒシヒシと感じる。


 「ほら、その子を置いてお主らは騎士団長の方へとついて行くがいい」


 王様が少しいらつき始めたのか、口調が少し荒くなってきた。何か急いでる気も感じなくは無い。

 皐月はチラッと黒龍を見ると、黒龍は小さく頷き目を少し開ける。

 次に、皐月は座り睦月に小さな声で耳打ちをした。睦月の『同調どうちょう』で常にランドに繋げてもらう為だ。何かあればすぐに察知できるであろう。

 しかし、睦月は寂しそうな目をしながら首を横に振った。


 「子等よ。何か悪さをしようとしているのか?無駄だぞ。この部屋は『魔封石まふうせき』という石で造られているのだ。能力や魔法と言った物は、この部屋に居る間では使う事は出来ないぞ」


 騎士団長がグイッとランドの手を引き皐月から離す。ランドは一瞬、苦痛じみた顔をするのを見た皐月の中で何かがキレる音がした。

 ――音がしたのだが、相手は屈強な王国騎士団の団長だ。かかった所で太刀打ちすら出来ないだろう。

 何も出来ない自分に対しての苛立ちが、ギュッと拳を固く握る。


――――――――――



 「ふふふ…か。実はな、君の能力ちから完全武装フルウエポンマスター』に興味があってな」


 薄暗い部屋の中、ランドを椅子に固定させ、王様が目の前に立つ。

 その王様の後ろに研究者ぽい白衣を着た男女が何やらパソコンみたいな機械をパチパチとはじいている。


 「実はな、プリムが壊滅した後に調査員を行かせたのだが、アイツの遺体の近くにコレが落ちておってな…」


 王様は側近に目配せをする。

 側近はその視線を受け取ると、ゴソゴソと何かを取り出した。

 それは、鎖の付いたガラス玉の様な物。

 かつて、プリムを制していたおさが、様々な武器を用いて都を守ってきた魔剣『十二支剣』。

 普段は球体の形をしているが、魔力を流し込む事で12種類の武器へと変化する。


 「よし。コイツをあの子供に渡すのだ」


 渡すと言っても、何故か椅子に固定されているランド。その手元に側近が球体を押し当てた瞬間、ランドは声にならない声を叫び始めた。


 「ダメです。魔力が足りてませんので、この剣を使う事が出来ません!」


 側近は、球体を離そうとすると王様はそれを制した。


 「ならば、精霊を身体に宿すのだ。そこから魔力を引き出し何としてもその剣を使えるようにしろ」


 研究者は無言で頷くと、何かを探すような仕草を始めた。


 「何をしておる!何でも良いだろう。早くコイツに精霊を宿すのだ。うるさくて敵わん…」

 「いえ!まずは魔力チェッカーで、何の属性に適しているかをチェックしてからでないと――」

 「構うものか!精霊が付かないのであれば呪いでもかけて強制的に付ければ良いだろう。痛みに耐えられなければ、痛みを消す呪いをかけるのだ。その代償は何をしても構わん。人間として必要な欲求や感情、機能を全て代償にし、魔力が足りなければ全ての精霊を身体に宿してしまえ」


 王様はニヤリと笑う。


 「このクルシス大陸の2人の王なんてはやされてたが、ワシはアイツの事が大嫌いだったんだ。あの男と瓜二つのお前の顔を見ていると憎くて敵わん。だが、お前は儂の国の最強の兵士として働いてもらうぞ」


 王様が高らかに笑う。

 その日から、ランドにとっては地獄の日々が続いたのだった。


 まずランドは、防音性のある部屋に固定された。その中には2人の研究員。

 研究員は、『精霊の種』をランドに近づけると、痛みでもがき叫び声を上げた。

 本来なら、魔力チェッカーで適正属性を探し当て、本人が秘めている属性の精霊を宿すのが基本の宿し方なのだが、今回はチェックもされず4属性の精霊を宿さないといけないのだ。

 この方法は、罪人等に使う拷問としてやっていた方法で、自分の属性以外の属性を身体に強制的に入れられると、体全体の肉がちぎれるような痛み、吐き気、失禁等、様々な現象が巻き起こる。

 大人でもその痛みに耐えられなくなり、長くて1日で死に至るのだ。


 しかし、このランドという少年は、自分の能力スキルの力なのか分からないが、痛みで叫び声を上げ続けているが、その精霊を取り込もうとしている反応を見せていた。

 

 

 


 

 

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